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剣と魔法と何でも屋  作者: リース
第二章 リフィレス王国編
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第32話 片付け

「おかえりなさいませ」

「ん、ただいま」

 どうやら私達が一番遅かったみたいだ。既にほかの組は戻って広間に集まっていた。

「それにしても麗奈、凄い量だね」

 結衣が机の上に並べられた物の量を見て笑う。

「あら、麗奈様達は買ってこられなかったのですか?」

 シルヴィは私達が食器を持っていないのを見て首を傾げる。

「ううん、私たちでは運べそうになかったから、お店の人に運んでもらうことにしたの」

「そうでしたか。この荷物はどうしますか?」

「とりあえず食材類は食糧庫に調理器具はキッチンに片づけてくれるかな」

「分かりました。メルナ、カレル、お願いします」

「は、はい! えっと……それでは五人程で手分けして食料を運んでいただけますか……?」

「畏まりました」

 少し緊張した様子で指示をしたメルナは指示に従ってくれたメイド達を見て、ホッとため息をついている。

「そちらの三人は調理器具をキッチンへお願いします」

 メルナとは対照的に、カレルは覚悟を決めるように一人で頷くと、緊張した様子をほとんど見せずにメイド達へ指示をする。二人の性格の違いだろう。

「これらはどうしますか?」

 シルヴィが机に残っている掃除用具等の日用品を指す。

「何処かに片づける場所はあると思うけど……ヴァルド、分かる?」

「はい、この屋敷内は一通り把握してございます」

「それじゃあ残った人はそれを片づけてくれる? ヴァルド、お願い」

「畏まりました」

 ヴァルドに続いてメイド達は掃除用具等を片付けに行った。

「後はメイド達の着替えと……ん? シルヴィ、その瓶は何?」

 机の上にはエプロンドレスや少し大きめの瓶、その他さまざまな物がまだ残っている。

「これは油です」

「何に使うの?」

 そう言って結衣が瓶を手に取る。

「それは灯り用の油ですね」

「ああ、なるほど。電気は無いもんね」

「電気……ですか?」

「ううん、そっちの箱は?」

 机の端に大きな木箱が置かれている。

「これも日用品ですよ。とりあえず細かいものをまとめてあります」

「後これは……ベルかな?」

 結衣が手のひらサイズの銀色のベルを手に取ると、チリンと乾いた音が鳴った。

「それは使用人を呼ぶための呼び鈴です」

「凄い数があるね。五十個くらい?」

「ええ、これでも足りないそうですよ。メイドが言うには各部屋に一つとのことなのですが、お店にはこれだけしか売っていなかったのです」

「そう言えばシルヴィは何か買ったの?」

 私が尋ねるとシルヴィは机にある白のマントを持ちあげた。

「私はこれを買わせていただきました。これだけは替えを持っていなかったので」

 シルヴィの服装は上から下まで白で統一されていて、ところどころに銀色の装飾があしらわれている。今着けているマントを見せてもらうと裾の方が少し汚れていた。

「麗奈様達は何か買われたのですか?」

「私達は買ってないよ。どんなお店があるかもよく知らないから、また時間のある時にでも見に行こうかと思って」


コンコン


 私達が暫く雑談していると扉がノックされた。

「あ、来たみたい。皆運ぶのを手伝ってくれないかな」

 メイド達を呼んで玄関へ向かう。

「お待たせいたしました。お買い上げいただいた物をお届けに参りました」

 私が扉を開けると先程の男性が立っていた。後ろの女性と共に頭を下げる。

「ありがとうございます。それじゃあ皆で手分けして食器棚へ片付けていって」

 お店の人が次々と馬車から下ろす食器を順番に受け取り、広間とキッチンへ運んでいく。


「本日はありがとうございました。またご利用ください。それでは失礼いたします」

 大勢で手分けしたので十分程で受け取り終わった。お店の人は男性は何度も頭を下げると馬車に乗って帰って行った。

「麗奈様、片付けが終わりました」

 私達が食器を片付けて広間へ戻ると掃除用具等を片付けに行っていたヴァルド達が戻って来た。

「後は此処にある分だけだね。これもお願いして良いかな?」

「勿論でございます」

 ヴァルドは頭を下げると机に残った物を再び片付けに行った。

「麗奈様、私達も終わりました」

 メルナ達がキッチンから出てくる。

「ご苦労様。えっと……終わったばかりで悪いけど、夕食の準備をお願いできる? これだけの人数分だから大変だと思うけど」

「直ちに用意しますね」

 メルナが再びキッチンへ入っていく。

「ねえ、結衣。私達こんなに甘えてばかりで良いのかな……」

「うーん、仕方ないとは思うけど……うん、私達はその分、何でも屋を頑張ればいいんじゃないかな」

 そう言って結衣は頷く。

「そうだね、私達は何でも屋を頑張らないとね」

「とりあえず、これで一段落つきましたね」

 片付いた机の上を見てシルヴィがいう。

「後は今用意してもらっている夕食と……あ! お風呂はどうなるんだろう? シルヴィ、水はどうやって用意するの? 魔法で出すんだっけ?」

「ああ、えっと……魔法で出すこともありますが、魔力が低い人は井戸から汲むことが多いですね。丁度今メルナ達が汲みに行ってるのではないでしょうか」

「井戸から汲むとなると大変だよね……一体何回汲みに行かないといけないんだろう」

 おそらく百回では済まないだろう。

「もしかして浴槽があるのですか?」

「あ、うん。あるよ」

「そうでしたか。浴槽があるのであれば井戸で汲むわけにはいきませんね」

「普通は無いの?」

「はい。多くの場合は温めたお湯を浴びて汚れを落とす位です。浴槽があるとすればお城とごく一部の貴族の家くらいではないでしょうか」

「そうだったんだ。お城で毎日入っていたから普通にある物だと思っていたよ」

「いえ、とても珍しいものです。私もお城で一度入れていただいたことがあるだけです。ところで、こちらにある浴槽は大きいのですか?」

「うん、皆で入れるようにお願いしたから結構大きいと思うよ」

「少し狭いけど全員でも入れるよね?」

「うん。いけると思うよ」

「それでしたら魔法で入れるのが早いですね。井戸から汲むのは無理があると思います。お風呂はどちらですか? 私が入れてきます」

「本当? それじゃあお願いしてもいいかな」

「お任せください」

「結衣、私達も行こうか。ついてきて」

 私達は二階の突き当たりにある浴室へと向かう。

「それにしても、家の中でこんなにも歩くなんておかしな話だよね」

 浴室の前に着くと結衣が後ろを振り返って笑う。

「あはは……百メートル位はあったね」

「此処が浴室ですね」

 シルヴィが扉を開ける。

「これは……相当な量の水が必要ですね」

「大丈夫?」

「ええ、これくらいでしたら何とかなると思います」

『水よ!』

 シルヴィが手をかざし詠唱すると、浴槽が一瞬にして満たされた。

「後は温めるだけです」

「あっ!」

 一瞬ふらついたシルヴィを結衣が支える。

「大丈夫? シルヴィ」

「申し訳ございません。大丈夫です。ただ、麗奈様との模擬戦で使った魔力がまだ回復していなかったようで……」

 大丈夫とは言ったものの、やはりつらいようで、シルヴィは結衣に身体を預けている。

「ごめん、無理させちゃって。私が温めてみるよ」

「お手数をおかけしてすみません」

「リニアス、聞きたいことがあるんだけど……」

「はい! 水を温める魔法ですね」

「うん、教えてくれるかな?」

「お任せください。いくつか方法はありますが、そうですね……麗奈の魔力であれば片手をつけて簡単な魔法で温めることが出来ると思います。私に続いて詠唱してください」

「分かった」

 私はリニアスに言われた通り、片手を水に浸ける。

「炎を司る精霊よ」

『炎を司る精霊よ』

「我が手に熱を宿せ」

『我が手に熱を宿せ』

 私の指輪が光を放ち、水に浸けた手が熱を帯びていくのを感じる。

「後は適温になったら手を抜いてください」

「うん、ありがとう」

「いえ、何かあったらいつでも言ってくださいね。あ、時々従水の魔法で混ぜた方がいいと思います」

「従水の魔法だね」

「はい、では失礼します」

「結衣、湯加減を見てくれるかな?」

「うん」

 結衣がシルヴィを座らせると片手を浸けた。

『今、此処に有りし水よ、我が意に従え!』

 私は従水の魔法で水をまんべんなくかき混ぜる。

「あ、凄い……物凄い速さで温かくなってるよ」

「適温になったら言ってね」

「うん――あ、これくらいかな」

 私は浸けていた手を抜く。

「いや~、魔法って便利だね」

「今の方法で温めることが出来るのは、おそらく麗奈様くらいだと思いますが」

 シルヴィは苦笑している。

「そうなの?」

「はい、今のは膨大な魔力で無理やり温めたので魔力の効率が非常に悪く、並の魔法使いでは温まる前に魔力が尽きると思います」

「そうなんだ……まあ、何にせよこれでお風呂は大丈夫だね」

「麗奈、どうする? すぐに入る?」

「うーん、夕食がいつできるか確認してからにしようか」

 私はシルヴィをおんぶする。

「あ……」

「気にしないで。無理をさせて本当にごめんね」

「いえ、お気になさらないでください。ありがとうございます」

 少しシルヴィの顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。

「……やっぱり遠いよね」

 結衣が百メートル程ある廊下を見て再び嘆いた。

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