第31話 買い出し
家を出て五分程商業区を歩くと陶器屋についた。周りの店よりも一回り大きく、此処なら必要な食器はなんとか揃いそうだ。
「いらっしゃいませ」
「あ、すみません。少し見せてくださいね」
「はい。どうぞごゆっくりと見ていってください」
「食器といっても沢山あるよね。何から探そうか?」
「うーん、とりあえず使いそうなやつは全部買えばいいんじゃないかな。多くて困る事も無いと思うし」
「それもそうだね。それじゃあ私はあっちを見てくるね」
「うん、よろしく。ヴァルドも適当に探してくれる? 貴方達は向こうをお願い」
「畏まりました」
皆で手分けして使いそうな食器を探していく。
「結衣はどうだった?」
「うん、よさそうなのがいくつかあったよ」
それから三十分程して一通り見終えた後、それぞれが見つけた食器を皆で確認していった。
「なんていうか……ほとんど買占めみたいなものだよね」
結衣が見つかった食器を一通り確認して苦笑する。
「あはは……まあ、あれだけの人数が使う食器だから仕方ないよ」
結局、お店にある商品のほとんど全てを買うことになってしまった。
「どう? ヴァルド。もしかして、まだ足りないかな?」
「いえ、おそらく十分でございましょう」
「さすがにそうだよね。それじゃあ――あの、すみません」
「はい、何か御用でしょうか」
奥からお店の人が出てくる。
「買った食器を家まで届けていただくことはできますか?」
「ええ、ある程度数をお買い上げいただけるのであればお運びいたしますよ」
「それじゃあ買わない食器をあっちに持って行ってくれるかな?」
私達は買わない分を奥にあった台の上へ並べる。
「こちら全てでよろしいですか?」
お店の人が私達の並べた商品を指す。
「あ、すみません。そこに置いた以外を全部頂けますか?」
お店の人が一瞬考えた後、驚きの表情を浮かべる。
「こちらにある以外の全ての商品をですか!?」
「は、はい。問題ありませんか……?」
「失礼ですが、お代はお持ちですか?」
「ええ、おそらく足りると思います。おいくらでしょうか?」
「しょ、少々お待ち下さい。おい、ちょっと手伝ってくれ」
奥から若い女性が出てくる
「どうしたの? お父さん」
「こちらの方々がそこの台にある以外の商品を全部買いたいと仰っているんだ。すまないが代金を計算するのを手伝ってくれ」
「え、ええ!? 本当なの?」
「ああ、急いでくれ」
「わ、分かったわ」
女性は信じられないといった顔をしながら、男性が順番に言っていく値段を聞いて、沢山の球がついた道具を触る。
「あれってそろばんみたいなものかな?」
結衣が女性の持つ道具を指さす。
「多分そうじゃないかな? そろばんより玉の数はかなり多いけど」
相当な時間がかかりそうだったので私達はお店にあった椅子に座って待たせてもらうことにした。
それから一時間程経ったところで、計算を終えた男性がやって来た。
「お客様、大変長らくお待たせして申し訳ございませんでした」
そう言って男性が頭を下げる。
「いえ、こちらこそ無理を言ってすみませんでした。えっと、おいくらでしょうか?」
「ぜ、全部で十三ケリル七十ベレカになります」
私はエルに貰った革袋から、金貨十三枚と銀貨七十枚を取り出し男性に渡す。
「た、確かに頂きました。誠にありがとうございます。あの、どちらまでお運びすればよろしいでしょうか」
「えっと……何処って言えばいいのかな? ラクスって言っても分からないだろうし……」
「あの、ラクスと言いますと、此処から東へ少し行ったところに最近出来た屋敷でございますか?」
「あ、はい。そうです」
「そこへお届けすればよろしいのですね」
「はい。よろしくお願いします。あ、可能であればすぐに使いたいので、今日届けていただけないでしょうか」
「畏まりました。直ちにお届けにあがります。おい、すぐに馬車を用意してくれ!」
「分かったわ!」
「無理を言ってすみません。お願いします」
私達は御礼を言うと店を出た。男性は何度も頭を下げていた。
「今日中に届けてくれそうで良かったね」
「うん、助かったよ。さて、後はそれぞれの買い物だけだね。何処へ行く?」
私はそう言ってメイド達の方を見る。
「あの……本当によろしいのですか?」
「うん、遠慮はだめだよ」
「ありがとうございます。それでは今着ているものとは別に服を買っていただきたいのですが……」
「それなら服屋さんだね。行きたいお店はあるの?」
「は、はい。一度入ってみたいと思っていたお店が近くにあります」
「それじゃあ、そこに行こうか」
私達はメイドに続いて服屋さんへ向かう。さっきの陶器屋さんと私達の家の丁度真ん中にその服屋さんはあった。
「他の人が来ている服とは少し違うね」
結衣が店内を見渡して言う。店内にはチェック模様の服が多数陳列されていた。
「ここは隣の国から入って来た服を扱うお店でして、この模様は隣国の伝統的な模様らしいです。以前、前を通った時に一度着てみたいと思っていたのですが、私には到底買えそうになく諦めていたのです」
「そうなんだ。うん、好きなのを選んでね」
彼女は嬉しそうに笑うと、店にある服を見て回る。
「貴女は何かないの?」
もう一人のメイドに尋ねる。
「私は今持っている靴が傷んできたので、新しいものを買っていただけるとありがたいです」
「えっと、靴屋さんは近くにあるの?」
「あ、はい。丁度向かい側にあるお店です」
お店の外を見ると確かに靴屋さんがあった。
「それなら、彼女が服を見ている間に見てきたらどうかな。お金はこれで足りるよね」
私は金貨を一枚渡す。
「あ、ありがとうございます。それでは少しの間失礼します」
金貨を受け取ると向かい側のお店へ入って行った。
「ヴァルドは?」
「申し出は大変有り難く頂戴いたしますが、私は結構でございます」
私が尋ねるとヴァルドはそう言って頭を下げた。
「うーん……それなら命令にするよ。何か欲しいものを買ってくるように」
私はヴァルドに金貨を渡す。
「しかし……」
「これは命令だよ」
「……畏まりました。麗奈様、ありがとうございます」
ヴァルドは再び頭を下げると店を出て行った。
「麗奈様、お待たせして申し訳ございませんでした」
少しすると靴を見に行っていたメイドが戻って来た。私はお釣りを受け取る。
「ううん、ヴァルドもまだ戻っていないから大丈夫だよ」
「本当にありがとうございます」
「気に入った靴はあった?」
「はい――あ、決まったようです」
「麗奈様、これを買っていただけますか?」
そう言って、服を見ていたメイドが赤色のワンピースを私に見せる。
「うん――すみません、この服を頂けますか?」
「ありがとうございます。四十ベレカになります」
私が代金を支払い彼女は服を受け取った。
「お待たせして申し訳ございません」
「あ、ヴァルドは何を買ったの?」
「私はこちらを買わせていただきました」
「それは?」
ヴァルドが手にした箱を見て結衣が尋ねる。
「こちらは単眼鏡をしまうための箱でございます。今持っているものは傷がつくことがございまして、より柔らかい素材の物を買わせていただきました」
ヴァルドはその箱に、着けていた単眼鏡を入れて見せた。
「それじゃあ、買い物も済んだし戻ろうか。皆ももう帰っているんじゃないかな」
私達が店を出ると、外は少し暗くなっていた。




