第26話 神童
いつもより少し遅く起きた私達は顔を洗って身支度をしている。
「よし、完了。二人は準備できた?」
「うん、終わったよ」
「ええ、私も終わりました」
「それじゃあ行こうか」
「あ! 麗奈、ちょっと待ってください」
私が部屋を出ようとするとエルに呼び止められた。
「どうしたの?」
「今日はウィッグをつけていただけますか」
「ん、別に構わないけど……」
エルからウィッグを受け取る。
「エル、麗奈の目はいいの?」
「ああ、うっかりしていました。麗奈、目の方も何とかなりませんか?」
「大丈夫だよ」
私はリュックから茶色のカラーコンタクトを取り出す。
「麗奈、それは一体?」
「あ、カラーコンタクト持ってきてたんだ」
「うん、さすがにサングラスをずっとかけているのもおかしいから。これはカラーコンタクトと言って、こうして目の上に乗せるの」
エルにカラーコンタクトをつけて見せる。
「あ、目の色が……。その、痛くないのですか?」
「痛くはないよ。少し乾燥しやすくはなるけどね」
「お二人の世界には色々と不思議なものがあるのですね……」
「私達には魔法ほど不思議なものも無いけどね」
「ではお互い様ですね。うふふ、それでは行きましょうか」
私達が広間へ着くとカイゼルさんとセリアさんは既に座っていた。
「おはようございます」
「おはようございます。どうぞおかけください。昨夜はよく眠れましたか?」
「はい、ぐっすりと眠れました」
カイゼルさんに促され向かいの席へ座る。すぐに料理が運ばれてきた。
「エル、今日は私達に紹介したい人が居るんだよね?」
「おや、そうなのか」
「はい、麗奈達のお店を手伝っていただこうと思いまして」
「あ、そうなんだ?」
「お二人は未だこの世界の法律等についてはあまり詳しくないと思いましたので、協力していただける方を探しました」
「ああ、それは助かるよ。私もどうしようかと悩んでいたところだし」
「姫様、お話し中失礼します」
私達が話していると、給仕の人がエルに何言か囁いた。
「ご苦労様。どうやら来たみたいです。入ってもらってください」
給仕の人は一礼してから下がり、扉を開いた。
「おや、シルヴィアじゃないか」
「なるほど、シルヴィアですか。ふふ」
扉が開くと、シルヴィアと呼ばれた女性が入って来た。
「国王陛下、王妃様、姫様、ご無沙汰しております」
腰まである生糸の様な金髪を揺らしながら、きびきびとした動作でカイゼルさん達のもとへ歩いて来ると、頭を下げた。
「三年ぶりですか。暫く見ない間に随分と大きくなりましたね」
そう言ってセリアさんは微笑んでいる。
「姫様、本日はどのようなご用件でしょうか」
次に女性はエルのもとへ歩いて来ると口を開いた。
「ええ、実は貴女にこちらのお二人のお店を手伝っていただきたいのです」
「この人達をですか? 見かけない方々ですが……」
「麗奈、結衣、紹介しますね。シルヴィア・セシルです」
「初めまして麗奈涼海です」
「結衣水瀬です」
エルに紹介されて私達は頭を下げる。
「姫様、私にこの人達のお店を手伝えと仰るのですか?」
シルヴィアは意思の強さを感じさせる金色の瞳に、嫌悪感を顕にしてエルに尋ねた。
「はい。お二人ともこの国について詳しくないので、シルヴィアに是非とも協力していただきたいのです」
「お断りします。どうして私が何処の誰とも分からない様な方に協力しなくてはならないのですか」
「なんだか随分と嫌われたみたいだね……」
結衣が小声で私に話しかける。
「貴女ならお二人の役に立ってくれると思ったからです。麗奈、結衣、シルヴィアは数百年に一人の天才と言われていて、エスコーラを僅か九歳にして全課程を主席で修了したんですよ」
「エスコーラを九歳で!? す、凄い……」
結衣が目を丸くしている。それにしても優秀な人だけが集まるというあのエスコーラを九歳で修了するなんて……。
「とにかく、私はこの人達を手伝いはしません。そもそも私が役に立つというのは、この二人が私を使うということですか? 私はこんな子供に使われるつもりはありません!」
「はっはっは、シルヴィアは相変わらずだな」
シルヴィアを見てカイゼルさんは笑っている。隣に座っているセリアさんも口元を綻ばせている。
「お父様、笑っている場合ではありませんよ」
「それもそうだな。シルヴィア、一体何故そこまで拒むのだ。話くらい聞いても良いではないか」
「失礼ですが国王陛下、話を聞くまでもありません。私は何処の誰とも分からない様な方達と仕事をする気は毛頭ございませんので。ましてや私を使うなど……」
取り付く島も無いとはこのことだろう。カイゼルさんも苦笑している。
「お二人ともどうか気を悪くしないでください。根は悪い子ではないのです。ただ、非常に優秀である故に自尊心が非常に高いのです。実はこれまでにも何度か研究機関等に属したことはあるのですが毎回この調子で……。シルヴィアが修了した際に褒章を授けた時に知り合って以来、何処か納得してくれるところはないかと探しているのです。性格に少し難はありますが、紛うこと無き我が国の宝ですから」
「シルヴィア、何もそう邪険にせずともよいではありませんか」
セリアさんが話しかける。
「おお、そうだ。シルヴィア、試してみてはどうだ。二人が自身を使うに足るかどうかを」
「あら、それは良い考えですね」
カイゼルさんの案にセリアさんが賛同する。
「国王陛下がそう仰るなら……分かりました。一度だけ、一度だけです」
「お二人とも、よろしければお付き合いいただけませんか」
「はい、勿論構いませんよ」
カイゼルさんの頼みを断る理由が無い。
「それで国王陛下、方法はどのように」
「そうだな……ふむ。魔法なんてどうだ?」
「国王陛下、それは戦闘ということですか」
「ああ、模擬戦だ」
「私は勿論構いませんが、お二人に怪我をさせても責任はもてません」
「それについては問題ない」
「そうですか、分かりました」
「麗奈、全力でお願いします。相手のことを見下すのはシルヴィアの悪い癖です。折角の良い機会ですから手加減は必要ありません」
「それでは食べ終えたら訓練場へ行きましょうか」
「では、私は一足先に失礼します」
シルヴィアは一礼すると広間を出て行った。
「お二人ともご迷惑をおかけして申し訳ございません」
エルが頭を下げる。
「ううん、気にしないで」
「うん、別に何とも思ってないよ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」
「ところでエル、シルヴィアって未だ十二歳だよね?」
「はい」
「やっぱりそうだよね。随分と大人びて見えたな~。身長も私とほとんど変わらないよね」
「ええ、丁度結衣と同じくらいだと思います」
「ちなみにシルヴィアの魔力は強いの? 目の色も金色だったから相当強いとは思うけど」
「そうですね……私より強いことは間違いありません。お父様やお母様と同じくらいでしょうか」
「それくらいですね。ただ私達より魔力の扱いに長けているので得意属性以外の魔法に関して言えばシルヴィアの方が強力でしょう」
「そんなに凄いんだ……」
カイゼルさんの言葉を聞いて結衣が驚く。私もそれほどまでに凄いとは思っていなかった。
「ふふ、麗奈なら大丈夫ですよ」
そう言ってセリアさんは笑う。
「さて、私達もそろそろ向かいましょうか」
私達が食べ終えたのを見てカイゼルさんが席を立つ。
「麗奈、頑張ろうね」
「うん」
私達はカイゼルさんに続いて闘技場へ向かった。




