第25話 二人にプレゼント
お城へ戻り、お風呂を済ませた私達は広間へ向かった。
「お待ちしておりました。さあお掛けください」
カイゼルさんに促されて向かい側に腰を下ろす。
「お店はいかがでしたか?」
「思っていたよりもずっと凄くて、とても驚きました」
「うふふ、そうでしたか。喜んでもらえたみたいで良かったですね」
結衣の言葉にセリアさんは笑顔を浮かべる。
「はい。頑張った甲斐がありました」
「失礼します」
そのまま暫く談笑していると広間の扉が開き、メルナとカレルの二人が入って来た。カイゼルさん達の前だからだろう少し緊張している。
「ふふ、肩の力を抜いてください。さあ、こちらに」
「はい、失礼いたします」
二人はペコリとお辞儀するとセリアさんの横へ座った。
「それでは、全員揃ったところで食事にしましょう」
カイゼルさんの合図で食事が運ばれてくる。
「こうして麗奈達と食事をするのも久しぶりですね」
「私達にとってはそうでもないけどね」
そう言って結衣が笑う。
「もうっ、私は寂しかったのに本当にずるいです」
エルが頬を膨らませる。
「あはは、冗談だってば」
「でも、明日からはこうして一緒に食事出来ないのですよね……」
エルは寂しそうにそう言うとスープを口に運んだ。
「そ、そうだね……」
エルの言葉に結衣の顔が暗くなる。その途端エルが笑顔になった。
「うふふ、冗談ですよ。会いたくなれば遊びに行きますから」
「あっ、エルひどい!」
「先程の仕返しです」
そう言ってエルがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「うーむ……」
「エルに一本取られたね」
「でも、そうは言ってもやっぱり少し寂しいです」
「大丈夫だよ。それこそさっき言ったみたいにいつでも遊びに来てくれればいいから」
「麗奈、約束ですよ。いつでも、遊びに行きますからね」
「うん、待ってるね。ところでエル、例の話だけど……」
「ああ、そうですね。そろそろ……メルナ、カレル」
「はい」
「何でしょうか」
メルナとカレルが食事していた手を止めてエルの方を見る。
「お二人にプレゼントがあります」
「プレゼント……ですか?」
「はい。お父様、お願いします」
「うむ」
カイゼルさんが手を叩くと給仕長が入って来た。二人の傍へ来るとトレイを差し出した。二つのブローチの様なものが載っている。
「これは……」
「えっ!」
ガタッ
カレルが慌てて立ち上がろうとして椅子を倒した。
「し、失礼しました。その……これを私達に……!?」
「はい。私達からのプレゼントです」
「本当に、本当によろしいのですか……まるで夢のようです」
「エル、あのブローチは?」
「あれがエスコーラ研修生の証です」
「エスコーラ?」
結衣が首を傾げる。
「私から説明しましょう。お二人もよく聞いてくださいね」
「はい!」
驚きの表情を浮かべていたメルナとカレルが姿勢を正してカイゼルさんの方を見る。
「メルナとカレルの二人は知っていると思いますが、我が国にはエスコーラとエイカデムという二つの研究機関があります。どちらも様々な学問や魔法について研究をしています。また、研究の傍ら教育も行っているのです」
「つまり学校というわけですね」
「そうです。それぞれ初等科、中等科、高等科に分かれており、課程を修了する毎に上の課程へと進んでいきます。その黄色のブローチが初等生の証です」
「二人とも良かったね。学校へ行くのが夢だったもんね」
結衣が二人に微笑む。
「はい。ですが……国王陛下、本当によろしいのですか。私達がエスコーラになんて……」
メルナが不安そうな表情を浮かべる。
「もちろんです。お二人には期待していますよ。ただ、私達がしてあげられるのはここまでです。これからはお二人の努力次第です」
「が、がんばります……」
そう言うカレルもまた不安そうな顔をしている。
「二人ともどうしたの? 学校へ行くのが夢だったんだから、もっと嬉しそうにしないと」
結衣が不思議そうにして言う。
「確かに学校へ行くのは夢だったのですが、まさかエスコーラに行けるようになるとは思っていなかったので……」
「エル、エスコーラってそんなに凄いの? 学校へは一部の人しか行けないとは聞いていたけど」
「そうですね、エイカデムは試験にさえ通れば入る事が出来るのに対して、エスコーラはエイカデムの中で特に成績が優秀な人と、国内外から選りすぐられた人だけが入る事が出来るようになっているのです」
「それじゃあ、そこに居る人は皆凄い人ばかりなんだ」
結衣が驚いている。
「でも、二人ならきっと大丈夫だよ。ね、麗奈」
「うん。私もそう思うよ」
私がそう言って視線を向けると二人は小さく笑った。
「お二人には三日後から通っていただくことになります。馬車が迎えに来ますので遅れないようにしてくださいね」
「分かりました」
カイゼルさんの言葉に二人は頷いた。少し落ち着いてきたのだろう。不安そうな表情は無くなっている。
それから暫くして夕食を食べ終えた私達は部屋に戻り、引っ越しの準備をしていた。
「ねえ麗奈、他に何かあったかな?」
結衣がリュック中を確認して尋ねる。
「いや~、特にないと思うよ。荷物といっても私と結衣、リュック一つずつだけだから」
「そうだよね。それじゃあ、準備完了!」
結局、引っ越しの準備は五分程で終わった。
「エル、はいこれ」
結衣がリュックから取り出した袋を渡す。
「あ、これは……」
「うん、ポテトチップスだよ。持ってくるって約束したからね」
「ありがとうございます。お二人が元の世界へ戻った後お父様達と頂いたのですが、とても美味しかったです」
「ほんとっ? それなら良かった」
「そう言えば、お二人は明日の朝時間はありますか?」
「うん。引っ越しもそこまで急いでいるわけではないから時間はあるよ。どうしたの?」
「明日、お二人に紹介したい人が居るのです」
「あ、そうなんだ。問題ないよ」
「それでは朝食の時に紹介しますね」
「ふわ~……」
それから暫くの間、淹れてもらったアンベルに口をつけながら談笑していると結衣の欠伸が聞こえた。
「あら、随分と眠そうですね。結衣」
「あ~、そう言えば今日は朝早かったね」
「うん、眠くなってきたよ……」
今ベッドに入れば三秒で寝息が聞こえてくるだろう。
「ふふ、少し早いですが休みましょうか」
「そうだね。結衣も限界みたいだし」
結衣は椅子に座りながら舟を漕いでいる。私はボーっとしたままの結衣の服を脱がせた後、抱きかかえてベッドへと連れて行った。寝かせるとすぐに寝息が聞こえてくる。
「相当疲れていたみたいですね」
「相当早く起きたからね――ねえエル、メルナとカレルのことだけど……」
「はい」
「二人とも本当に大丈夫かな? エスコーラって特別なんだよね?」
「お二人なら大丈夫ですよ。実は麗奈たちが居ない間、給仕長にも相談したのですが」
「なんて言ってた?」
「二人なら何の問題も無いと言っていました。エスコーラでは得意とする学問を専攻するのですが、メルナは植物、カレルは文学において相当の知識があると」
「そうなんだ、二人ともすごいね。好きだとは聞いていたけどそれほどだなんて」
「給仕長も、いったいどこで学んだのか、と言っていましたよ」
「まあ、そういうことなら問題ないね」
「はい、問題ありません」
「これで安心して眠れるよ」
「明日は朝食の時間を少し遅らせますので、ゆっくりと休んでくださいね」
「うん、そうさせてもらうよ。お休み」
「お休みなさい」
私は口元まで布団に入って目を閉じた。




