第23話 再会
昨日、ベッドに入るのが早過ぎた私たちは、いつもより随分と早く目が覚めた。外はまだ薄暗い。
「おはよう、結衣」
「おはよう。こんなに早起きしたのは久しぶりだよ」
「どうする? 朝ごはんにする?」
「うーん、起きたばかりだから、もう少し後の方がいいな」
「それなら、何か飲み物でも淹れようか」
「うん、ミルクティーがいいな」
とりあえずベッドから出た後、服を着て一階に下りた。洗面所で顔を洗い、私はキッチンでお湯を沸かす。結衣はソファに座ってボーっとしているようだ。
「甘い方がいいよね?」
「あ、うん、思い切り甘くしてね」
結衣の返事を聞いて、角砂糖を二つほど増やす。
「お待たせ」
ガラスのローテーブルに飲み物を置き、結衣の隣へ座った。
「ありがとう」
結衣がカップを口へ運ぶ。
「どう? さすがに甘過ぎたかな……?」
「ううん、とても美味しいよ」
結衣の笑顔を見る限り、その心配は杞憂だったようだ。
「よかった」
「ねえ、麗奈」
結衣がカップを置くと同時に口を開く。
「どうしたの?」
「えへへ、なんでかな。今、とても落ち着いているの」
どうやら私と同じことを思っていたみたいだ。
「私もだよ。夜明け前だから、かな」
私の言葉に結衣は小さく微笑む。カップを置く音が心地よく、暫くの間、私たちは互いに静寂を楽しんでいた。
「ねえ麗奈」
「なあに? 結衣」
結衣がゆっくりとした動作で私の方を向き、一呼吸置いてから沈黙を破った。
「私達、いつまでこうしているのかな」
結衣がのんびりとした口調で言う。
「……朝食の用意でもしようか」
「うんっ」
私たちは同時にサッと立ち上がると、それまでが嘘のようにテキパキと朝食の準備を始めた。
朝食の後、片づけを終えて時計を見ると既に七時を過ぎていた。外もしっかりと明るくなっている。
「そろそろ行こうか」
リュックの中身を確認していた結衣に声をかける。
「そうだね。エルも待ちくたびれてるよ」
「まだ一日も経ってないけどね。きっと驚くよ」
私たちはリュックを背負う。
「靴は持った?」
「うん、ばっちりだよ。もちろんお土産もね」
結衣がプレゼントの入った紙袋を持ちあげて言う。
「それじゃあ行くよ」
結衣の肩を持ち詠唱する。
『TO DISSIMILAR WORLD LEAD ME』
一瞬にして景色が変わり、私たちはフェレウス城のカイゼルさんの部屋に出た。
「カイゼルさん、いないみたいだね」
「そうだね。とりあえず部屋に行こうか。エルがいるかもしれないし」
誰もいない部屋を後にして、私たちの部屋へと向かう。
「麗奈! 結衣!」
扉を開けると、私たちの姿を確認したエルが一呼吸置いた後、ものすごい勢いで抱きついてきた。目には涙を浮かべている。
「エルってば、まだ一日しかたっていないのに大げさだよ」
「二週間、ずっと待っていました。もしかしたらもう帰ってこないのではないかと……」
「え?」
「ん?」
「あら?」
私たちの頭上に一斉にはてなマークが浮かぶ。
「エル、私たちが戻ってから、どれくらい経っているの?」
「麗奈たちが帰ってから、今日で丁度二週間になります」
いつの間にかエルも泣き止んでいる。
「麗奈、私達は一日しか経っていないよね?」
「そうなのですか!? 私はてっきり、お二人はもう戻ってこないのではないかと思っていました」
エルは再び泣きそうになっている。
「そんなことあるわけないじゃない。ねえ、麗奈。それにしても、一体どうなっているのかな?」
「おそらく……だけど、私たちの世界とこっちの世界では時間の進む速度が違うんじゃないかな。どうしてなのかはわからないけど」
「それじゃあ、私たちの世界の一日はこっちの世界だと大体二週間位になるんだね」
結衣は腕を組んで頷いている。
「そうみたいだね」
「それでは、お二人にとっては一日しか経っていないのですか!?」
エルが驚きの表情を浮かべる。
「そうだよ。ね? 麗奈」
「うん」
私と結衣は頷く。
「そんな……ずるいです! どんなに寂しかったか……」
エルの瞳に浮かんだ涙が今にも溢れそうになっている。
「ごめんね。あ、そうだ。結衣、あれ出して」
「あれ? ああ、あれね」
「エル、お詫びとは少し違うけど……」
「はいこれ、お土産だよ」
結衣が紙袋をエルに差しだす。途端、エルの顔が驚きに変わり、そして直ぐに喜びの表情になった。
「私に、ですか!?」
「うん、私と結衣からプレゼントだよ。気に入ってくれると良いけど……」
「開けても良いですか?」
「もちろん」
私がそう言うと、エルが物凄い勢いで包みを開いていく。
「これは、服……ですか?」
「うん、私達の世界のね」
「ありがとうございます! 大切にしますね」
「あ、後これも」
結衣がもう一つの紙袋を渡す。
「これは……わあっ、靴ですね! 良いんですか? こんなに頂いて……」
「いつも良くしてもらっている御礼だよ。だから遠慮しないで」
「そんな、良くしてもらっているのは 私の方です。本当にありがとうございます」
「喜んでもらえたみたいで良かったね、麗奈」
「うん。あ、そうだ。エル、良かったら着てみて、きっと似合うと思うよ」
「はい。あ、着方を教えてもらえますか?」
「どう……ですか? おかしくありませんか?」
結衣に手伝ってもらい着替えを終えたエルが、恐る恐るといった様子で尋ねる。
「そんなことないよね? 麗奈」
白のロングカーディガンに黒のキャミソール、モスグリーンのミニスカートと白のブーツ、完璧なまでに似合っている。
「とっても良く似合っているよ」
「そ、そうですか?」
そう言ったエルは満更でもない様子で、鏡の前に立って色々とポーズを決めている。
「そういえば、お二人が来たことをお父様に伝えておかなくてはいけませんね」
暫く鏡の前に立って満足したエルが私達の方を向いて言った。
「さっき、部屋に行ったけどカイゼルさん居なかったよ」
「はい、お父様は公務で少し出られているので、お昼頃には戻ってくるはずです」
「あ、そうなんだ」
「それじゃあ、カイゼルさんが戻ってくるまでゆっくりしてよっか」
「そうですね。実は、お二人にお話ししたいことが山ほどあるのです」
「あ、もしかして、お店のこと?」
「はい! あ、今飲み物を用意させますね。お二人ともアンベルで良いですか?」
「うん」
エルは給仕の人にアンベルを三つ持ってくるように言うとソファに座った。私達も向かい側に座る。




