第20話 魔力
「あら、起きたみたいですね」
私が目を覚ました時には、ベッドに二人の姿はなく、二人は机でアンベルを飲みながら談笑していた。
「おはよう。今何時位かな?」
「えーっと、今は十一時だよ」
昨日倒れた時からだとすると、随分と長い時間寝ていたことになる。相当疲れていたのだろう。
「私達が起きても、麗奈はピクリとも動きませんでしたから、やはり随分とお疲れだったようですね」
「それにしても、麗奈が元気になって本当によかったよ。昨日はもし目が覚めなかったらどうしようかと心配で仕方なかったんだよ」
「心配掛けてごめんね」
「ふふ、元通り回復したのですから良いではありませんか」
「それもそうだね」
「麗奈、お腹は空いていますか?」
「うん、ずっと何も食べていなかったから、もうペコペコだよ」
「そういえばそうでしたね。では、朝食にいたしましょう。私達もかなり前からお腹が空いているのです」
暫くするとメルナとカレルによって朝食が運ばれて来た。今日も私達と一緒に朝食を食べても良いらしく、自分たちの分の料理も持ってきていた。
「実は今日の朝食は私達が作ったのですが、いかがでしょうか?」
私達が一口目を口に運んだのを見てからメルナが尋ねた。
「あ、そうなんだ。とっても美味しいよ」
「そうですね。お二人には料理の才能があるのではないでしょうか」
「えへへ、ありがとうございます」
「お口に合わなかったらどうしようかと心配で……」
二人は本当に緊張していた様で、私達の感想を聞いてからようやく自分たちの手を動かし始めた。
二人の作った朝食が美味しかった上に、私達のお腹が空いていたため、あっという間に朝食を平らげた。
「そういえば、皆さまに国王陛下より言伝を預かっております」
食後、ゆっくりしているとカレルが少し緊張した様子で口を開いた。
「お父様から? 一体なんでしょう」
「リニアスの件で聞きたいことがあります。お時間のあるときで構いませんので、部屋まで来ていただけないでしょうか。とのことです」
「ああ、そういえば昨日は話さずに寝たんだった」
「カレルが畏まって言うから、私まで緊張しちゃったよ」
「私も一体何があったのかと心配してしまいました」
「あ……申し訳ございません。言伝を預かることが初めてで、間違えないようにしないと、と思うと緊張してしまって……」
「大丈夫だよ。しっかりと伝わったから」
「うふふ、そうですね。おそらく一言一句間違えていないのではないでしょうか。幾分か口調も似ていた気がします」
エルの言葉に皆が笑い、カレルは少し恥ずかしそうにしている。
「それじゃあどうする? これから行く?」
「私はそれでいいと思うけど、特にこれから予定があるわけでもないし」
「実は私も皆さまにお話ししたいことがあるのです」
「あ、そうなんだ。それじゃあ今から行こっか」
結衣に続いて、カイゼルさんの部屋に向かう。さすがにフェレウス城にも慣れた。迷うことなくカイゼルさんの部屋へ着いた。
コンコン
「どうぞ」
結衣が扉をノックするとカイゼルさんの声が聞こえた。
「失礼します」
「おお、結衣達でしたか。お待ちしておりました。どうぞお座りください」
カイゼルさんに促されて私達はソファに座る。メルナとカレルは私達の横に立ち、カイゼルさんは向かい側に腰かけた。
「おや、もう来られていたのですね」
隣の部屋からセリアさんが出てきた。カイゼルさんの横に座る。
「昨日はご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「いえ、麗奈が悪いわけではありません。頭をあげてください」
「私達こそ、このようなことになるとは思っておらず、本当に申し訳ないことをしてしまいました」
そう言ってカイゼルさんは頭を下げる。
「模擬戦は私も了承してのことですから、お気になさらないでください」
「ありがとうございます」
「それで、リニアスの件なのですが」
「おお。確か昨日、麗奈はリニアスに会ったと……」
カイゼルさんは身を乗り出す。
「はい。気を失っている間に、私の心の中でリニアスに会いました」
「心の中……ですか」
「リニアスは――」
私が意識を失っている間のことを説明すると、カイゼルさんは非常に驚いていた。
「話が真実であるとすれば、今の麗奈はこれまでよりも更に強大な魔力を扱えるということになりますね」
「そうだと思います。試してみたことが無いので何とも言えませんが、リニアスによると余程のことが無い限り魔力の消耗で意識を失うようなことは無いそうです」
「一体どれほどの魔力なのか私には想像もつきません。しかし、リニアスが自身よりも才能があると言った程です。それは膨大な魔力なのでしょう。少し怖いですが、どれほどのものなのか見てみたい気もします」
「麗奈、試しに何か魔法を使ってみたらどう? 私もちょっと見てみたいな」
結衣はそう言って顔を輝かせる。横でエルもウンウンと頷いている。
「えっと……それじゃあ何か使ってみようかな。私も気になるし」
「それでしたら、少しお待ちください」
セリアさんは席を立つと隣の部屋からグラスを持ってきた。
「このグラスに湧水の魔法を使ってみてください」
「分かりました」
私は目の前に置かれたグラスへ手をかざし、グラスに水が入った様子を思い浮かべる。
『水よ』
詠唱と同時にグラスに水が湧いた。
「うーん、特に変わった気はしないけど……」
「そうですね。私ももっと水が溢れるかと思っていました」
二人とも想像とは少し違っていた様で首を傾げている。
「魔力は変わっていないということでしょうか」
私が尋ねるとカイゼルさんは首を横に振った。
「いえ、水の量だけが魔力の強さではありません。セリア、炎を出してくれるか」
「はい」
『炎よ』
セリアさんの手のひらに炎が現れる。
「エル、湧水の魔法でこの炎を消してみなさい」
「分かりました」
エルがセリアさんの手のひらへ手をかざす。
『水よ』
詠唱と同時に現れた水は、炎を完全に消し去ることはできず、その勢いを少し弱めただけで、全て蒸発してしまった。
「やはり私の魔力では、まだお母様には及びません……あっ」
「そういうことです。麗奈、そのグラスを貸していただけますか」
「はい」
私は水の入ったグラスをカイゼルさんに渡す。
「セリア、もう一度頼む」
『炎よ』
再びセリアさんの手のひらに炎が現れた。
「見ていてくださいね」
そう言ってカイゼルさんはグラスを傾けた。グラスから水が零れる。ジュッという音と共にセリアさんの手のひらの炎は消えた。
「おお! まさかこれほどとは」
カイゼルさんが驚きの声をあげる。
「そんなに凄いことなんですか?」
結衣は特に驚いた様子も無くカイゼルさんに尋ねる。
「ええ、セリアは魔法使いの中でもかなり強力な魔力を持っています。そして得意な属性は火、そのセリアの出した炎を湧水の魔法で消すことが出来る人物は数えるほどしかいないのではないでしょうか」
「そんなに凄いんだ……流石は麗奈だね!」
「ふふ、こんなに簡単に消されてしまうとなれば、私もさらに鍛錬しなくてはなりませんね」
「あはは……」
私は何と返せばいいのか分からず、とりあえず苦笑を浮かべた。
「さて、今日はお時間をありがとうございました。リニアスについて知ることもできましたし、麗奈の魔力も見ることができました。御礼を言わせていただきます」
そう言ってカイゼルさんは席を立とうとする。
「あ、お父様」
「どうした、エル」
「お話したいことがあるのです」
そういえば何か話があると言っていた。一体なんだろう。
「ふむ、一体なんだ」
カイゼルさんは上げた腰を再び下ろした。
「麗奈達のお店の件ですが、よさそうな場所が見つかりました」
「本当っ!?」
私と結衣は思わず身を乗り出す。
「おお、それは良かった。それで場所は何処なんだ?」
「はい、先日言っていた通り、商業区で良さそうな土地がありました。商業区の中でも居住区に近い場所ですから、麗奈達の希望に応えられると思います」
「居住区の近くか……ふむ、良い場所ではないか」
カイゼルさんは頷きながらそう言った。
「さすがはエルだね」
「エル、ありがとう。まさかこんなに早く見つかるなんて」
「えへへ、少しがんばりました」
エルは笑みを浮かべる。
「麗奈、どんな所か楽しみだね」
「そうだね。エルが探してくれたんだから、良いところなのは間違いないと思うけど」
「そこで、この後なのですが、一度その場所を見ていただきたいのです。そしてお二人がよろしければお店の手配をいたしますので」
「あ、そうなんだ。すぐに行くの?」
「ええ。特に何もないようであれば。その場所までは少しかかりますから」
「私達はいつでも大丈夫だよね、麗奈」
「うん、ウィッグさえ貸してくれれば」
「麗奈の髪は目立ちますからね」
そう言ってセリアさんが笑う。
「ウィッグの準備は出来ています。と言っても、持ってきてもらうだけですが。あ、メルナとカレルもついてきていただけますか」
急に話しかけられて二人は一瞬体をビクッとさせた。
「私達も、ですか?」
「ええ、お二人の家になる可能性がある場所ですから。午後のお仕事は休みにするよう給仕長にも伝えてあります」
「そういうことでしたら、喜んで御供させていただきます」
自分たちの家になるかも知れない、と言うところで二人は少し喜色を浮かべた。
「エルの言う通りこの時間は人通りも多く、馬車でも一時間くらいはかかります。すぐにでも行かれた方が良いでしょう」
「それじゃあ行こうか」
「うん、楽しみだね」
「馬車を門の前に待たせてあります。メルナ達も準備があると思いますので、十五分後にそこで待ち合わせしましょう」
「分かりました。それでは失礼させていただきます」
二人は頭を下げて部屋から出て行った。嬉しそうな顔をしていた様に見えたのは気のせいではないだろう。
「ではお父様、お母様、行って参りますね」
「ああ、行ってきなさい」
「気をつけるのですよ」
「はい、フェルディに護衛を頼んでありますから大丈夫です」
「それじゃあ行こうっ」
カイゼルさんの部屋を出た私達は、目を隠すためのサングラスを取りに一度部屋へ戻ってから馬車へ向かった。ウィッグは途中で給仕の人が持ってきてくれた。




