第17話 城内探検 中編
「失礼します」
「ようこそ、これからセリアと訓練所を見に行かれるらしいですね」
「はい、カイゼルさんも行かれるのですか?」
「ええ、私は魔法訓練の方ですが。よろしければ後で見に来てください」
「では、行きましょうか」
「よろしくお願いします」
私達はカイゼルさんに挨拶をしてからセリアさんと部屋を出た。
庭へ出て暫く歩くと、朝も見かけた広場の様な所へ来た。
「これは王妃様、麗奈に結衣も」
後ろから声を掛けられて振り向くとフェルディさんが居た。
「あ、フェルディさん」
「二人にも訓練を見せたいのですが構いませんか?」
「もちろんです。これから剣技の訓練を行いますので、あちらの席でご覧になってください」
フェルディさんに案内されて、訓練所の横へ置かれた席へ座る。
「それではこれより剣技の訓練を始める! 王妃様も見ておられるので気を抜かずしっかりと行うように!」
フェルディさんの声で兵士の人達が一斉に剣を振り始めた。
「麗奈、す、凄い迫力だね」
結衣の言う通り気迫がひしひしと伝わってくる。
「お二人も良ければ訓練に参加してみませんか?」
「えっと、剣の訓練にですか?」
セリアさんの突然の提案に思わず聞き返してしまった
「はい、いかがでしょう」
「どうする? 麗奈」
「うん、折角だからやってみようよ」
「それでは決まりですね――フェルディ」
「はっ、何でしょうか」
セリアさんがフェルディさんに何言か伝えた。
「畏まりました。麗奈、結衣、どうぞこちらへ」
「は、はい。よろしくお願いします」
結衣の動きが緊張でぎこちない。
「止め!」
フェルディさんの号令で一斉に剣が止まる。
「これより王妃様の希望で一対一の模擬戦を行う。十分後に始める。各々相手を見つけておくように」
「フェルディさん、私達剣を持ったことが無いのですが、大丈夫でしょうか?」
結衣が少し不安げな表情を浮かべながら尋ねる。
「ご心配なく。お怪我はさせません。仮に怪我なんてさせてしまった際には……」
フェルディさんはそこまで言ってセリアさんの顔を見た。
「おい、ちょっと来てくれ」
フェルディさんが近くに居た男性に声をかける。
「はっ、何でしょうか」
「お二人の剣の相手をしてくれないか。お二人とも剣を持つのは初めてだ。受けるだけで構わん。くれぐれも怪我をさせることのないように」
「分かりました。お二人ともよろしくお願いします。剣はあちらの倉庫にある物をお使いください。剣を初めて持たれるとのことですので、軽いものを選ばれるのが良いと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
私達は男性が指した武器倉庫へ入る。
「ふわ~、いっぱいあるね~」
「軽いものが良いと言ってたよね」
「軽いもの……これかな」
結衣が倉庫の中で最も細い剣を手に取った。形はレイピアに近い。
「どう?」
「剣って重いんだね……」
私も結衣と同じ剣を取る。想像していたよりも重い。一キログラム以上あるだろう。
「さっきはもっと軽そうに見えたけど、見た目より随分と重いね」
私達は選んだ剣を持って倉庫を出た。
「選ばれましたか」
「はい」
そう言って選んだ剣を男性に見せる。
「レイピアですね。最も軽い剣です。お二人にも扱いやすいと思います。それでは、こちらへどうぞ」
男性と共に地面に書かれた円形の線の中へ入る。
「そうですね、まずはそちらの方から。真ん中の線の所に立ってください」
結衣が円の中心で剣を構える。片手では重いのだろう、両手で剣を持っている。
「立会人は私が務めます」
そう言ってフェルディさんが円の脇へ立つ。
「これより模擬戦を行う――始め!」
フェルディさんの声で、訓練をしていた周りの人たちが集まってきた。結衣と男性は最初の位置で剣を構えて睨み合っている。
「どうぞ、遠慮はいりません。御好きに打ってきてください」
「は、はい。分かりました」
結衣が剣を大きく振りかぶりながら男性との間合いを詰める。
「えーいっ!」
力任せに剣を振り下ろす。剣同士のぶつかる乾いた音がした。男性は眉一つ動かさず片手で受け止めた。
「いたたっ……」
逆に剣を振った結衣がその反動で被害を受けている。
それから何度も剣を振るうが全て軽く受け流された。
「はぁっ……はぁっ、もう駄目。休憩させてください……」
「そこまでっ!」
結衣が休憩を申し出たところで試合は終わり、観戦していた人から拍手が起こる。
「結衣、お疲れ様」
「疲れたよ……」
結衣は私の所まで来ると、それだけ言って椅子に座りこんだ。
「それでは次の方どうぞ」
「麗奈……がんばってね。麗奈なら一本とれると思うから」
「あはは……それはどうかな。とりあえず頑張ってくるね」
男性に促されて私は円の中心へ行く。
「準備はよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
今まで結衣の相手をしていた男性は汗一つかいていない。
「これより第二試合を行う――始め!」
「ええいっ!」
フェルディさんの声と同時に私は地面を蹴った。男性との間合いを一気に詰め、頭上から剣を振り下ろす。
「むんっ」
しかし結衣の時と同様に男性に受け止められてしまった。一歩下がり横から斬り込む。
「くっ!」
男性がそれを受けるために剣を構える。
「はぁっ!」
刹那、私は剣の向きを変え、斬り上げた。
「っ!」
「そ、そこまで!」
私の振った訓練用の刃の無い剣が男性の防具に傷をつけたところで勝負はついた。フェルディさんの声の後、一呼吸置いてから歓声が上がる。
「ありがとうございました」
私達は互いに一礼してから円を出た。
「さっすが麗奈!」
「えへへ、ありがとう」
「お疲れ様です。驚きましたよ。まさか麗奈が一本取るとは……」
「今回は相手の方が油断されていたので、偶然勝てただけです」
「それでも、一本取ったことは事実です。副隊長があれでは近衛隊について少し考える必要がありますね。うふふ」
「お、王妃様。それは……」
「冗談ですよ。それにしても本当に驚きました」
「隊長、彼女は剣を持つのが初めてではなかったのですか?」
「俺もそう聞いたのだが……」
フェルディさんは私の方を見る。
「本当に初めてですよ」
「とすれば、身体能力の高さと才能……ですか。王妃様、私に麗奈との手合わせを許していただけませんか」
「隊長自らですか!?」
「私は構いませんよ」
セリアさんは楽しそうに笑っている。
「ありがとうございます。麗奈、私と手合わせしていただけませんか」
「わかりました。お手柔らかにお願いします」
「麗奈、頑張ってね!」
「ありがとう」
「隊長、お願いしますよ」
「ああ、任せておけ」
私とフェルディさんは円の中心に立った。互いに一礼し相手の目を見る。
「それではこの試合の立会人は私が務めさせていただきますね」
そう言ってセリアさんが円の横に立った。
***
「始め!」
セリアの掛け声と共に、麗奈が再び地を蹴る。その勢いに乗せて切り払うが、フェルディは剣を軽く動かすのみでそれを受け流した。
「やぁっ!」
麗奈は一歩下がり頭上から剣を振り下ろす。
「はあっ!」
フェルディは力に任せてそれを弾き返した。麗奈は耐え切れずに仰け反ってしまう。そのまま切り払われた剣は、咄嗟に一歩下がった麗奈の銅を掠めた。
「……っふぅ」
互いに一度距離を取り睨み合う。周りから大歓声が沸き起こった。
「本当に剣を持つのが初めてとは思えませんね。次はこちらから行かせていただきます」
そう言うとフェルディは麗奈との距離を一気に詰め、目にも留まらぬ速さの連撃で攻め立てる。
「っつ……」
剣を振ったことの無い麗奈と、近衛隊の隊長を務め、毎日訓練を行っているフェルディとではその実力の差は歴然。持って生まれた身体能力と才能だけでは何とか受けることで精一杯だった。
「はあぁっ!」
何とか再び距離を取った麗奈は一歩で距離を詰め渾身の力で斬り上げた。
「うぉおおっ!」
乾いた音が響く。麗奈の手に強烈な振動が伝わり、握られていた剣は宙を舞った。重い薙ぎ払いを受けきることができなかった麗奈にフェルディの剣が突きつけられる。
「そこまで!」
大歓声が沸き起こった。
「ありがとうございました。まさかこれほどとは……思わず全力を出してしまい、申し訳ございません」
そう言って手を差しだしたフェルディの頬に一筋の汗が伝った。
***
「麗奈、お疲れ様。凄かったよ、全然見えなかった」
試合を終えた私は結衣の横に腰を下ろす。
「申し訳ございませんでした。麗奈、お怪我はありませんか」
「はい、ありがとうございます。フェルディさんは本当に強いですね」
「毎日訓練をしていますので。それにしても、最後は私も余裕がありませんでした」
「麗奈、お見事でした。そしてフェルディ、近衛隊の意地を見せましたね」
「危ないところでしたが……麗奈が訓練を積めば手も足もでないでしょう」
「それは言いすぎです。フェルディさん」
「どうでしょうか。麗奈、近衛隊に入りませんか?」
「ふふ、麗奈が入ってくれれば私も安心ですね」
そう言ってフェルディさんとセリアさんは笑った。
「ありがたいお話ですが、遠慮しておきます」
「それは残念です。入っていただければ麗奈に敗れた副隊長の代わりを、と思ったのですが」
「さて、それでは少し休んだら行きましょうか。あの人も待っていますから」
「はい。あ、もう落ち着いたので大丈夫です」
「では行きましょうか」
「ありがとうございました」
「フェルディさんありがとうございました」
「こちらこそ手合わせしていただき、ありがとうございます。気が変わったらいつでも言ってくださいね。副隊長の座を用意しておきますので」
笑っているフェルディさんに挨拶をして私達は訓練場を出る。横で聞いていた副隊長さんは複雑な表情を浮かべていた。




