第16話 城内探検 前編
コンコン
朝、目が覚めた私達が部屋で談笑していると、扉がノックされた。
「おはようございます」
「失礼します」
入ってきたのは黒のエプロンドレスを着たメルナとカレルの二人。
「おはよ~」
「おはようございます」
「おはよう、今日からよろしく」
二人は少し照れながら一礼すると、運んできた料理をテーブルの上に並べていく。
「それでは、何かございましたら申しつけください」
「失礼しました」
二人は入ってきた時と同様に一礼すると部屋を出て行こうとした。
「あ、待ってください」
二人をエルが呼びとめる。
「何でしょうか」
「お二人はもう朝食を済まされましたか?」
「いえ、私達はこれからです」
「でしたら、一緒に食べませんか?」
「良い考えだね。うん、一緒にたべよう」
エルの提案に結衣も賛同する。
「申し訳ございませんが、私共が皆様と食卓を共にすることはできません」
「大丈夫です――給仕長はいますか?」
エルがそういうと扉から給仕長さんが入ってきた。
「どうされましたか」
「この子達も一緒に朝食を食べます。二人の食事を持ってきてください」
「畏まりました」
少しすると給仕の方が二人の食事を運んできた。二人の前にそれを並べると部屋を出て行った。
「それでは頂きましょう」
私達は並んだ料理に手をつける。どれも美味しい。
「ん、二人ともどうしたの?」
結衣がメルナとカレルに尋ねる。二人とも料理を食べていない。
「いえ、その……こんな凄いものを食べたことが無くて……」
「あら、そうでしたか。ふふ、遠慮することはありません。どうぞ食べてください」
エルに促されて二人はコクリと頷くと手に持ったスプーンを口に運んだ。
「いかがですか?」
「美味しいですっ!」
「幸せな味です」
「二人とも大げさですよ」
エルはそう言って笑う。二人が美味しそうに食べているのを見て私達も自然と笑顔になっている。
「そういえば、エルはこの後忙しいんだよね」
「はい。立派なお店にするためにはしっかりとした準備が欠かせません」
「ありがとう。楽しみにしてるからね」
「麗奈、私達はこの後どうするの?」
「特にすることはないし……エル、何かないかな」
「それでしたらこのお城の中を見て回られてはいかがでしょう」
「あ、それいいかも」
「確かに見たこと無い場所はまだまだあるから、丁度いいね。そうしようか」
「それでは決まりですね」
「ところでメルナとカレルは?」
やっぱり仕事で忙しいのかな。
「私達はお昼まで休憩なので、特にすることはございません」
「それなら私達と一緒に回る?」
「うん、一緒に行こうよ」
「よろしいのですか?」
「もちろん。カレルも行くよね?」
「はい。よろしくお願いします」
そう言ってカレルはコクンと頷いた。基本的に何か喋るのはメルナで、カレルはほとんど喋らない。ただ、喋る事が苦手というわけではないようだ。今も私が尋ねたらしっかりと答えてくれたし。
「そういえば自己紹介がまだだった。既に知っているとは思うけど一応……私は麗奈涼海ね」
「えっと、私は結衣水瀬だよ」
「では私も、エルティシア・ファン・リフィレスです」
「メルナです。麗奈様専属になりました。よろしくお願いします」
メルナの身長は結衣より少し低い位で、少し癖のある焦げ茶色の髪を肩まで伸ばしている。少し吊り気味のクリっとした目が特徴的だ。
「カレルです。結衣様の専属です。よろしくお願いします」
カレルの髪はメルナより少し明るく、長さは腰まである。目は少したれ気味で穏やかな印象を受ける。そして歳は下だが、身長はメルナよりも少し高く、結衣とほとんど変わらない。
「二人は何か趣味とかあるのかな?」
「私はお花が好きです」
「お花か~、何が好きなの?」
「いえ、特にこれといったものはございませんが、見ていると落ち着きます」
「お花でしたらお城の庭にたくさん咲いていますから、後で見に行かれても良いかもしれませんね」
そういえばこのお城に来た時も、立派な花壇があった。
「カレルは?」
「私は本を読むのが大好きです」
「読書とは渋い趣味だね~」
「結衣、読書って渋いの?」
「あれ、渋くないかな?」
「私は渋いという印象は受けないけど……」
「私にとっては渋いんだよ。うん、そういうことにしておこう」
「読書がお好きなのでしたらお城の書庫を利用されるのが良いと思います。後で、利用できるように言っておきますので」
「本当ですかっ!? ありがとうございます!」
カレルはそれを聞いて顔を輝かせた。いかに読書好きなのかが伝わってくる。
「行くところがいっぱいできたね」
「午前中に回り切れるか少し心配だけど」
「ふふ、それでしたら早く食べ終えてしまいましょう」
「それでは、行ってきますね」
「うん。よろしくね」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
早々に朝食を食べ終えた私達は、これから何でも屋の準備にかかるエルと門の前で別れた。
「それじゃあ折角外に来たんだから先に庭でも見て回ろうか」
「はい!」
私達は横に並んで庭を歩いていく。
「それにしても本当に広いよね~」
「うん、一体どれくらいの広さがあるのかな」
「私達の通っている学校くらいの大きさはあるんじゃない?」
「そうなると一周するのに一時間くらいだね」
「結衣様達は学校へ行かれているのですか?」
私達が話しているとカレルが尋ねた。
「うん、行ってるよ」
「それは凄いですね」
「うーん、特に凄いということはないと思うけど」
結衣が首を傾げる。
「そうなのですか? 学校へ行くことが出来るのはごく一部の人だけと聞きました」
そうか、この世界だと学校は特別なものなんだ。
「えっと、私達の世界は学校へ行かなければならないと決まっているの。だから全員が学校へ行っているんだよ」
「全員が学校へ行けるのですか……」
カレルが少し寂しそうな顔をする。もしかして学校へ行きたいのかな。
「ねえカレル」
「何でしょうか、麗奈様」
「カレルは学校へ行きたいの?」
「はい、学校へ行けば共通語の読み書きや色々な事を学ぶことが出来ます。そうすれば今よりももっと多くの本が読めるようになります。私の様な者が行けるところではありませんが……」
「共通語?」
結衣が再び首を傾げる。
「ご存じありませんか? 他の国と交流する際に使われる言語です」
「そういうのがあるんだ」
「メルナはどう? 学校へ行きたい?」
「そうですね。行くことが出来るのであれば行ってみたいとは思います」
「メルナも行きたいんだ――あ、結衣。あれセリアさんじゃない?」
「ほんとだ。どこか行ってたのかな」
私達が話しながら庭を歩いているとセリアさんが歩いてきた。
「セリアさん、こんにちは」
「あら、皆さんお揃いで。こんにちは。お散歩ですか?」
「はい、メルナがお花が好きらしいので」
「そうでしたか。このお城の庭は結構評判が良いのですよ。ゆっくり見てくださいね」
「は、はい。ありがとうございます」
セリアさんに話しかけられて、メルナが少し緊張している。
「ところでセリアさんは何処かへ行かれていたのですか?」
「はい、訓練所の方へ様子を見に」
「訓練所ですか」
「そういえばまだ行かれたことはありませんでしたね。お昼からもう一度行きますが、よろしければ一緒に行かれますか?」
「お願いします。良いよね? 結衣」
「もちろん」
「それでは、お昼に部屋でお待ちしていますね」
そう言ってセリアさんは城の方へ歩いて行った。私達はそのまま庭を見て回る。
「いや~、それにしても広かったね~」
気がつけば途中からメルナに続く形になっていた。話しながら歩いていたので気にはならなかったが、エルと別れた時から一時間半程経っている。
「これほど広いとは思っていなかったよ。メルナ、どうだった?」
「お花をたくさん見ることが出来て大満足です」
「それなら良かった。それじゃあ次は書庫だね」
「はい! お願いします」
カレルは待ちきれないといった様子。
「ところで麗奈、書庫がどこにあるのか知ってるの?」
そういえば知らなかった。
「えっと、誰かに聞けば分かるよ」
「麗奈様ですね」
「はい。本を見せていただきたいのですが」
門の横に居た人に教えてもらい、書庫へ行くと司書の方に声をかけられた。
「姫様より伺っております。鍵のかかった書架のもの以外はご自由に持ち出していただいて構いませんが、その際は私に一声おかけください」
「分かりました」
「それでは、また何かございましたらお呼びください」
そう言うと司書の方は入口の横にある受付の様な場所へ腰かけた。
「えっと、どうしようか。一緒に見て回る? それとも――」
カレルの方を見ると待ちきれないといった様子でそわそわしている。
「あはは、それじゃあ各自適当に見て回ろうか。二人はどれくらい時間あるの?」
「後一時間程です」
「なら、五十分後に此処ね」
私がそう言うとカレルはあっという間に書架の間へ消えた。メルナも司書の方に植物の本がある場所を聞いている。
「結衣、私達はどうする?」
「端から順番に見て行こうよ。どんな本があるのか気になるし」
「少し急がないと全部見て回るのは無理そうだね」
流石は王城、書庫もとても広い。一体どれだけの本が所蔵されているのだろうか。
「どうだった? 読みたい本はあった?」
「沢山ありすぎてどれを借りようか悩んだくらいです」
そう言うカレルの手には十冊程の本が抱えられている。
「メルナも気に入った本があったみたいだね」
「はい」
カレルと比べると随分と少ないが、花の絵が描かれた表紙の本を何冊か持っていた。
「麗奈様達は何を借りられるのですか?」
カレルが私の持つ本を覗き込みながら尋ねる。
「私達はこれだよ」
そう言って私はカレルに本の表紙を見せた。
「魔法、ですか」
「うん、麗奈も私も魔法についてはほとんど知らないからね」
私達は司書の方に手続きをしてもらい書庫を出た。
「それでは私達は此処で失礼します」
「お仕事がんばってね」
「色々とありがとうございました」
書庫の前で二人と別れてから、私達は部屋に戻り昼食を食べた。少し休んでからセリアさんの部屋へと向かう。私達が行くとカイゼルさんも一緒に居た。




