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剣と魔法と何でも屋  作者: リース
第二章 リフィレス王国編
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第14話 危機一髪

 それからしばらく通りを歩いていると何かを見つけたのか、急に結衣が止まった。

「ねえエル。あそこ見てもいい?」

 結衣が路地にある一軒のテントを指さして言う。

「構いませんよ」

「随分と入りにくい雰囲気のお店だけど……」

「こういうお店にこそ、面白いものが売っているんだよ」

 確かにそれには一理あるかもしれない。結衣に続いて路地へ入っていく。

「さて、何が売っているのかな?」

 結衣がそういってお店の中を覗き込む――結衣が固まった。店の中を指さして声を失っている。

「結衣? どうしたの? 何かおかしなものでも――」

 結衣の指す先を見て驚いた。薄暗い店内には女の子が二人、服も着ずに縛られている。

「お二人とも何かあったのですか!?」

「ひ、人……裸の女の子が……」

「これは……」

 店内を見たエルが結衣と同じように声を失った。

「そうだ、早く助けないと」

「う、うん!」

「そうですね! とりあえず巡回している兵を呼びましょう」

「おやおや、そんなことをされては困りますね」

 店の奥から背の低い太った中年の男が出てきた。脂ぎった顔に気味の悪い笑みを浮かべている。

「貴方のしていることは許されることではありません!」

 エルが毅然とした態度で男に言った。

「別に許してもらおうとは思いませんねぇ。とりあえず、見られてしまったからにはこのまま帰すわけにはいきませんなぁ」

「お二人とも逃げましょう」

 エルに引っ張られて私たちはもと来た道を戻ろうとする。

「逃がしませんよ――お前達!」

 男の声で建物の隙間から何人もの屈強な男が行く手を阻んだ。

「ど、どうするのっ?」

 結衣が怯えている。

「大丈夫です。この程度の人数であれば私の魔法で」

『生命の源たる水よ我が意に従――』

「おっと、そうはさせませんよ」

『渦となり束縛せよ!』

「あっ!」

「きゃっ!」

「結衣!」

 エルが詠唱している間に、後ろにいた太った男が結衣に向けて魔法を放った。結衣の周りを風が回っている。

「その娘に傷をつけて欲しくないなら抵抗しないことですねぇ」

「……わかりました」

 エルが詠唱をやめて両手をあげる。私も両手を頭の後ろにまわした。私が横にいながら結衣に手を出させてしまうなんて……。

「それでいいのです。お前達、この娘どもを縛ってあげなさい」

 男の合図で私とエルは縄で縛られた。

「ふっふっふ……二人ともなかなかの上物ですねぇ。貴族の家にでも売り飛ばしてあげますよ」

「そんなことさせません!」

「その勇気は買いますが、その状態で何ができるのです。ああ、魔法を使うそぶりを少しでも見せたら……わかっていますね?」

 そう言って男は結衣の方を見る。

「麗奈、ごめんなさい……」

「気にしないで。きっと何とかなるから」

「それはそうと、お嬢ちゃんは私の好みですねぇ。売り飛ばさずに私の元で飼ってあげましょうか」

 男は結衣の周りの風を止めると、片手に持ったナイフを突きつけながら、その脂ぎった手で結衣の頬を撫で上げた。

「ぃやぁっ!」

 結衣が悲痛な声をあげる。

「やめなさいっ!」

 エルが叫んだ。男がエルの方へ歩いてくる。

「さっきから気に入りませんねぇ。自分の置かれている状況が分かっていないようです。少しお仕置きが必要ですねぇ……」

 そう言うと男は手を振り上げ、エルの頬を思い切り叩いた。

「っ!」

 バシンッという音とともにエルが倒れこむ。

「エルっ!」

 結衣が叫ぶ。

「これで分かったでしょう……さて、さっきからお前は何を黙っているのです。それにその変な眼鏡……顔を拝んであげましょう」

 そう言って男が私の顔へ手を伸ばす。触れようとした瞬間――景玉が光を増し、男の体は弾き飛ばされた。

「なっ!」

 私は咄嗟に結衣の元へ駆け寄る。

「麗奈!」

「お前達! 何をしているのです。さっさと捕まえなさい!」

 武器を持った男達が一斉に私と結衣に襲いかかってくる。私は正面に立って結衣を庇い、これからくる痛みを覚悟した。

「そこまでだ!」

 この声は――フェルディさん!? 私が顔をあげると剣を構えたフェルディさんが居た。

「フェルディさん!」

「お二人ともこちらへ!」

 私と結衣がフェルディさんの後ろへ逃げるとフェルディさんが縄を解いてくれた。

「まさかもう一人いたとは……しかし形勢は変わりませんねぇ。大人しく剣を捨てなさい。この娘がどうなってもいいのですか?」

 太った男は倒れているエルを抱き上げてナイフを突き付けた。そして私達の周りを武器を持った男達が取り囲む。

「さあ! 何をしているのです。早く剣を捨てなさい!」

「フェ、フェルディさん! 早くしないとエルが……」

「結衣、ご安心ください」

 そう言うとフェルディさんは小さな声で詠唱を始めた。

「えぇい! 早く剣を捨てるのです!」

「吹き荒べ烈風!」

 フェルディさんが太った男めがけて剣振るう。一筋の風が取り囲む男の隙間を抜けて、ナイフを持った男の手に襲いかかった。

「っ!」

 男の持つナイフが弾き飛ばされる。

「走って!」

 フェルディさんが太った男めがけて突っ込んだ。私も結衣を引っ張って後ろに続く。

『か、風よ烈風となりて――』

「ハァッ!」

 太った男が咄嗟に詠唱をしようとしたところにフェルディさんが斬りかかった。

「ウッ……!」

 詠唱が済む前にフェルディさんが斬り伏せた。男がその場に倒れる。フェルディさんは受け止めたエルを私に預けた後、再び剣を構えて、武器を持った男達の方を睨みつける。

「お、俺達は雇われていただけだ! 悪くない!」

「痛い目に遭いたくなければ武器を捨てろ」

「分かった! 捨てるから勘弁してくれ!」

 男達が一斉に武器を捨てる。

「よし、そのまま大人しくしていろ」

 フェルディさんが私達の縛られていた縄で

 男たちを縛り上げた。

「……っぅん」

「あっ、エル大丈夫!?」

 気が付いたエルは一瞬間をおいてから、ハッとした表情を浮かべる。

「お、お二人とも! ご無事でしたか!?」

「うん、フェルディさんが助けてくれたから」

「フェルディが?」

「おお、姫様気が付かれましたか」

 男達を縛り終えたフェルディさんが歩いてきた。

「どうしてフェルディがここに?」

「はい。申し訳ないとは思いながらも、皆様をお守りするため、後をつけさせていただいておりました」

「そうだったの」

「なかなか出る時がなく、姫様に怪我をさせてしまいました。申し訳ございません」

「これくらい、大したことありません。おかげで助かりました。ありがとう」

 そう言ったエルの頬は赤く腫れ上がっている。口を開いたときの様子だと、口の中も出血しているだろう。何てことないような表情をしているが、かなり痛むはずだ。

「そうだ。ねえエル、魔法で治せないの?」

 結衣が閃いたという顔で尋ねる。

「確かに治癒の魔法はありますが、水と土の二つの属性を合わせて使う魔法でして、私の得意な属性は水ですが風の方に偏っているのです。そのため治癒の魔法は殆ど使うことができません……」

「そうなんだ……それじゃあ誰か他の人が使えれば――」

 結衣がフェルディさんの方を見る。

「すみません。私の魔力では治癒の魔法を使うことすらできません」

「そうですか……」

 結衣が肩を落とす。

「それなら、結衣が使えばいいんじゃない? ほら、丁度得意属性が水だし」

「そうだね。うん、やってみる。エル、使い方教えてくれないかな」

「はい。まず、治癒させる対象へ両手をかざします」

「こうかな?」

 結衣が言われた通りに、エルの頬へと手をかざす。

「そして両手に意識を集中して、治癒させるという思いをこめながら『生命の源、水を司る精よ我が手に癒しの力を与えよ』と、詠唱してください」

「わかった。……それじゃあいくよ」

『生命の源、水を司る精よ我が手に癒しの力を与えよ!』

 結衣が詠唱すると、エルの頬が僅かに光った。

「ど、どうかな? 見たところあまり変わっていないようだけど……」

「そ、そうですね……痛みがほんの少し和らいだ気がします」

「そっか……ごめんね。うまく出来なくて」

「いえ、お気持ちだけでも嬉しいです。高度な魔法ですから、使うことが出来ただけでも凄いことですし」

「ごめんね。そう言ってくれると嬉しいよ。でも、その怪我どうしよっか……」

「私がやってみるよ」

 私に属性の問題はないはずだし、うまくいくかもしれない。

「麗奈は今朝、魔力を使いきりました。お気持ちは嬉しいですが、やめた方が――」

「大丈夫。そのままのエルを見てられないし、やってみるよ」

 私は結衣と同じようにエルの頬へ手をかざし、意識を集中する。エルの頬を治癒させるという思いをこめて――。

 私が詠唱しようとした瞬間、エルの頬が光った。結衣の時よりも遥かに強く光っている。そして少しすると光は収まった。

「おお、これは……」

「い、痛みが消えました」

「麗奈凄い! どうやったの!?」

 光が収まり私が手を離すと、怪我をしていたことが嘘のように綺麗に治っていた。

「私にも分からないけど、詠唱しようとしたら光って……」

「今のは間違いなく治癒の魔法です。しかし、詠唱をせずにというのは……後ほどお父様に聞いてみましょう」

 何かまた光属性が関係しているのかな。

「それにしても、治ってよかったね」

「はい、まるで怪我をしていたことが夢のようです。それでは色々ありましたが、遅くなりましたしそろそろ戻りましょう」

「姫様、この者たちはどうされますか」

「奴隷の売買は重罪です。全員お父様の元へ連れて行きましょう」

「畏まりました。後、中にいた子供ですが薬か何かで眠らされているのでしょう。呼びかけても反応がありません」

「放っておくわけにもいきません。その子達も城へ連れて行きます」

「それでは、全員乗ることができませんので馬車を手配いたします。それまで少しお待ちください」

「分かりました」

「あ、フェルディさん!」

 歩いていこうとしたフェルディさんを呼びとめる。

「麗奈、どうかされましたか?」

「全員城まで連れて行けばいいのですよね」

「はい、そのための馬車を」

「それなら私に任せてください」

「何か良い方法でもあるの?」

「うん。ほら、神能があるじゃない」

「あ、そっか。それなら全員すぐに移動させられるね」

「フェルディさん。その人たちを捕まえている縄を持って、もう片方の手で私の肩を持ってください」

「分かりました」

 フェルディさんが縄の端を持ち、片手を私の肩に乗せる。

「結衣とエルは女の子達をお願い」

「分かりました。もしかして、お二人がこちらへ来た時に使ったというものですか?」

「うん、そうだよ」

「それは楽しみです」

「それじゃあ、離さないでね」

 皆が私を掴んでいることを確認してから詠唱する。

『NOW TRANSFER』

 

 

「麗奈にこんな力があったとは……」

 フェルディさんが驚きの表情を浮かべている。

「これが神能なのですね……」

「うん。驚いた?」

「はい、何とも不思議な感覚です」

「私も初めはびっくりしたよ」

 捕まっている男たちも、何が起こったのか分からないようで困惑している。

「おっと、驚いている場合ではありませんね。国王陛下にお伝えしなければ。

 近衛隊長のフェルディだ。門を開けよ」

 フェルディさんがそう言うと門が開いた。

「それでは私はこの者たちを国王陛下の元へ連れて行きます」

「エル、私達はどうするの?」

「夕食まで少しありますので、一度部屋に戻りましょう」

「では、私はこれで失礼いたします」

「フェルディさん今日はありがとうございました」

「私も、何とお礼を言っていいか」

「私は仕事をしたまでです。それでは」

 フェルディさんは少し照れながら、男たちを連れて行った。私達も女の子達を医務室へ預けてから部屋へ戻った。お風呂で汚れと汗を流してから、広間へ向かう。

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