第13話 社会見学
部屋に戻った私たちは、お風呂で汗を流した後、昼食を食べている。
「それにしても、私たち魔法を使ったんだよね~」
「夢みたいだけど、実際に使ったんだから、信じないわけにはいかないね」
「まさか、結衣も魔法使いだったとは思いませんでした」
「私もびっくりしたよ――あ、そういえば……」
「ん、どうしたの?」
「ううん、おかしくないかな? って思って」
「何がですか?」
「ほら、私の髪の色変わったじゃない。変じゃないかな?」
「ああ、なんだそんなこと」
「大丈夫です。とても似合っていますよ」
急に言うから何かと思えば……私とエルは顔を見合わせて笑う。
「それにほら、そんなこと言ったら私の方が」
「まあ、確かに光を放つ銀髪は珍しいよね。でも麗奈は大丈夫だよ。もとが良いからなんでも似合うよ」
「そうですね。不思議なまでに麗奈に合っています」
次は結衣とエルが顔を見合わせて、ウンウンと頷き合っている。
「あはは……ありがとう……」
嬉しいような嬉しくないような何とも微妙な気分。
「それはそうと、これから町に行くんだよね? 私、目立たないかな?」
普通に考えればかなり目立つはず。
「そういえば、考えていませんでした。どうしましょうか」
「と言っても、見られることには慣れているし、そこまで問題でもないけど」
「いえ、そういうわけにはいかないのです」
「どういうこと?」
「お城ではお父様が箝口令をしいていますから問題はないのですが、銀色の髪、リニアスの話は誰もが知っている話です。麗奈がそのまま街に出れば騒ぎになってしまいます」
リニアスが戦争のもとになったことがあるくらいだし、目立たないにこしたことはないか。
「どうする? 麗奈」
「うーん、目はサングラスで何とかなると思うけど……」
「サングラス……ですか?」
エルが首をかしげて頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「サングラスっていうのは光を遮るレンズのメガネだよ」
「そういうものがあるのですね」
「麗奈、持ってきてるの?」
「うん、カバンの中にいつも入れてあるから」
そういって私はカバンからサングラスを取り出す。
「それがサングラスですか? 色のついたメガネですね」
「うん、これをかけて……どうかな?」
サングラスをかけて二人の方を向く。
「うーん……」
結衣がうなっている。
「あれ、ダメかな?」
「いや、多分大丈夫だと思う。サングラス越しに少し光が見えるけど、気にするほどでもないと思うよ」
「麗奈の顔が少し怖くなりました」
「それは仕方ないかな……さて、後は問題の髪だけど……エル、何か隠せそうなものないかな?」
「そうですね……あ、少し待っていてください」
そう言ってエルは部屋を出て行った。
「何か思いついたのかな?」
「多分そうだと思うよ」
私達が適当に雑談しながら待っていると、数分でエルが戻ってきた。
「お待たせしました。これなんていかがでしょう?」
そう言って見せたエルの手には金髪のウィッグがある。
「これならいけるんじゃない? 麗奈」
「うん、着けてみよう」
エルから受け取り、早速着ける。
「どう? サイズはぴったりだけど」
「綺麗に隠れてるよ」
「なら、これで問題なしだね」
「役に立ってよかったです。それでは問題も解決しましたし、行きましょう」
エルに続いてお城の庭、私達が昨日馬車を降りた場所へ出る。フェルディさんが馬車の横で待っていた。
「お待ちしておりました」
そう言ってフェルディさんは一礼する。
「ご苦労様。お二人とも、乗りましょう」
フェルディさんの手を借りて私達は馬車へ乗った。
「姫様、どちらへ行かれますか」
フェルディさんが御者台に座ってから尋ねる。
「何か見たいところはありますか?」
「うーん、何があるのか分からないから……あ、お店とか見てみたいな」
結衣の一言で決まった。
「南の商業区へ」
「畏まりました」
フェルディさんが手綱へ合図をおくると馬車はゆっくりと動き出した。
「あ、昨日の馬車と違ってあまり揺れないね」
結衣の言う通り、昨日のようにガタガタと揺れることがない。
「お二人が乗ってこられた馬車は、兵が使うものでしたので……」
エルは苦笑している。
「それで、えっと……南の商業区だっけ?」
「はい、大きなお店から小さなお店まで様々なお店が出ています。とても賑わっていますよ」
商店街みたいなところかな?
「どれくらいかかるの?」
「そんなにかかりませんよ。馬車で二十分位です」
三人で談笑しながら揺られていると馬車がとまった。
「あ、着いたのかな?」
「そうみたいですね。降りましょう」
フェルディさんの手を借りて馬車を降りる。
「それでは行ってきますね」
「帰りはあちらの広場でお待ちしております。お気をつけて」
一礼してからフェルディさんは馬車を動かした。
「それにしても凄い人だね~」
通りには多くの人が居て、とても賑わっている。
「そして、凄く見られてるね~」
結衣は自分で言って苦笑している。
「さすがはエルだね」
私がそう言うとエルは首を横に振った。
「いえ、私もこんなに注目されるのは初めてです……」
「と、いうことは……」
そう言いながら結衣が私の顔を見る。
「私?」
「はい」
「うん」
「あはは……」
「あ、結衣もですよ」
「……え、そうなの?」
「麗奈のその、サングラスでしたっけ、それが目立っているということもありますが、それよりもお二人の服装が珍しいので」
「ああ、なるほど」
「確かに私達の服、この中では浮いてるね」
通りを歩いている人々は麻や毛で出来たボタンや装飾もほとんどない服を着ている。
「まあ、気にしても仕方がないか」
「そうですね、それでは行きましょう」
エルと並んで通りを歩いていく。左右にはレンガや石で造られた建物やテントが並んでいて、多くの人が出入りしている。
「ねえエル、あのお店見ても良いかな?」
「もちろんです。時間はありますのでゆっくりと見てください」
「やった、それじゃあ早速入ろう」
結衣に押されて入ったお店は服屋さんだった。街の人たちが着ていた様な服が沢山陳列されている。
「うーん、特に欲しいものは無いな~」
結衣の気に入る服は無かったようで、店内を一通り見ると店を出た。
「そういえば、エルはよく来るの?」
「はい、気分転換に来るので」
「そうなんだ。あ、ねえエル、あのお店は何を売ってるの?」
テントの下に液体の入った小さな瓶が並んでいる。
「果実の搾り汁ですね……あ! アプレムです」
エルが小瓶を手にとって驚きの声を上げる。
「ん、そんなに凄いものなの?」
結衣が尋ねる。
「はい。アプレムは海を隔てて南にある、メジュドという国でしか取れず、他国に出回る事はほとんどないのです。甘酸っぱくてとても美味しいんですよ」
「そんなに凄いものなんだ……」
「お客さんアプレムをご存じとはお目が高いね。此処にあるのはアプレムの中でも特に良いものだけを使った搾り汁だよ。この機会を逃せば次はいつ手に入るか分からねえ。是非買っていってくんな」
私達が見ていると店の奥から髭をはやした男性が出てきた。
「麗奈、これ買おう。ちょうど喉も渇いてきたし」
結衣が小瓶を手に取る。
「買うって言っても、私達お金持ってないよ」
「あ……そうだね……」
結衣は肩を落として小瓶を置く。私も飲んでみたいけど、お金がないのだから諦めるしかない。
「二人してそんなに落ち込まないでください」
落ち込んだ私達を見てエルが笑う。
「でも……」
「お金なら私が持っていますから」
「ほんとっ?」
結衣の表情が一瞬で変わる・
「はい――すみません、冷えているものはありますか?」
「おう、何本にしましょう」
「それでは三本ください」
「あいよ、少しまってくんな」
男性は店の奥へ入ると、冷えた瓶を三本持ってきた。私達はそれを受け取る。
「おいくらですか?」
「ちょうどケリル金貨六枚ですぁ」
エルは鞄から小さなピンク色の巾着袋を取り出す。
「あ……」
それを開いてエルは固まった。
「ん、どうしたのエル?」
急に固まったエルを見て結衣が尋ねる。
「いえ……その……すみません、これでお釣りはありますか……?」
エルは巾着袋から白い硬貨を一枚取りだして言った。
「そ、それはアルテ白金貨……お客さん申し訳ねえが今ある分じゃ釣銭が足りねぇ」
「ごめんなさい、やっぱりそうですよね……」
お釣りが無いなんて、エルの出したお金は一体どれだけ凄いんだろう。
「あ、それなら――あの、このお店の搾り汁はいくつありますか?」
「少し待っててくだせぇ」
男性は店の奥へ入っていった。何か話している声が聞こえる。少しすると先程の男性より身なりの整った男性が出てきた。店主か何かだろうか。
「お待たせしました。当店には今お持ちの分を含めて三百本ございます」
「それを全部頂いたらお釣りはありませんか?」
「ぜ、全部でございますか? お客様、当店で扱っておりますのはアプレムの搾り汁でも特に良いものだけを使った物で、いささかお値段が」
男性の言葉がエルの持っているお金を見て止まった。
「お、お客様、誠に申し訳ございませんが全部お買い上げいただいたとしても、当店には払えるお釣りがございません」
「そうですか……ああ、それではお釣りは結構ですので、その代わりに買った物を運んでいただけませんか?」
「も、勿論でございます。その程度のことでございましたら」
「それではお願いします」
エルがお金を渡す。
「ありがとうございます。どちらまでお運びしましょう」
「フェレウス城までお願いします」
「フェレウス城……も、もしや貴女は」
「では行きましょう」
私達は店を出た。後ろを見ると男性が固まっている。悪いことをしてしまったのかもしれない。
少し歩くと木陰で腰を掛けられそうな所があった。
「あそこで飲みましょう。温かくなってしまってもいけませんし」
そこに三人並んで座る。
「はい麗奈」
結衣から一本受け取って蓋を開ける。梅に似て少し違う不思議な良い香りがした。早速口をつける。
「おいしい~」
「とっても美味しいね」
私と結衣は一口飲んで同時に声を上げた。味はしっかりとしていて、にもかかわらず後味はさっぱりしている。いくらでも飲めそう。
「本当に美味しいです。何度飲んでも飽きません。私も久しぶりに飲みました。飲みたくてもなかなか売っていなくて……これを買えただけで今日は良い日です」
「ごちそうさま~大満足だよ」
「うん、私も」
私達はあっという間に飲み終えた。
「ところでエル、さっきエルが使ったお金ってそんなに凄いの? お釣りが払えないって言ってたけど」
「あ、はい。この世界のお金にはガナム銅貨、ベレカ銀貨、ケリル金貨、そしてアルテ白金貨の四種類があります。ガナム銅貨が百枚でベレカ銀貨一枚、ベレカ銀貨百枚でケリル金貨一枚、そしてケリル金貨千枚でアルテ白金貨が一枚です。国民の一か月の収入が金貨二枚程ですね。
私が先ほど使ったのはアルテ白金貨です。銀貨や金貨を入れてくるのを忘れてしまって……」
「そんなに凄いお金だったんだ……」
結衣が驚いている。
「ねえエル、もしかして今飲んだのって、物凄く高価なものじゃない?」
「そうですね、アプレムの搾り汁はなかなか手に入らないものですので」
それにしても、あのお金一枚で金貨千枚だなんて……エルがお姫様だということを改めて実感した。
「ごめんね、お金を使わせてしまって」
「いえ、お二人はお金を持っていなくても仕方ありません。それに、こうして一緒に見て回るのもとても楽しいですし、お礼を言うのは私のほうです」
エルは満面の笑みで言った。
「私もエルには感謝してるよ」
「うん、私も。エルには感謝してもしきれないくらい。だからそれはお互い様だね」
「うふふ、そうですね」
そう言って三人で笑う。
「さて、十分休みましたし、行きましょうか」
「うん」
一休みして喉も潤った私達は再び通りを歩き始めた。それにしてもお金は何とかしないといけないな。




