第12話 魔法の訓練
部屋に戻ると台の上に服が置かれていた。
「あれ、この服は?」
結衣が手にとって見ている。
「あ、それは訓練用の服です」
「そうなんだ。エルが着るの?」
「はい、ドレスでは動きづらいので、訓練の時はその服に」
そう言ってエルは着替え始めた。結衣もドレスを脱ぐのを手伝っている。
「そういえば、この世界では皆魔法が使えるんだよね」
結衣が着替えを手伝いながらエルに尋ねる。
「はい。魔力に差はありますが誰でも使うことができますよ」
「その、もしかして私にも使えるのかな?」
あ、そういえば結衣はどうなんだろう。私は使えるらしいけど。
「おそらく使えるのではないでしょうか。確か、相手の魔力を引き出す魔法があったと思います」
「ほんとっ!」
それを聞いた瞬間、結衣の表情が変わった。
「結衣も魔法使いだと良いね~」
「うん。俄然やる気が出てきたよ。私が何かするわけではないけど」
「あ、着替え終わった?」
「はい。おかしくないですか……?」
そう言ってエルは不安そうな顔を浮かべる。
「ドレスじゃないエルって新鮮だね~」
「良く似合ってると思うよ」
フリルのついた白のブラウスに黒色のスカート、スタイルが良いからシンプルな服がよく似合う。
「そう……ですか? ありがとうございます」
エルが褒められて照れている。
「でも、なんていうか訓練をする服って感じではないよね」
確かに結衣の言う通り、訓練をする服には見えない。
「実は訓練専用の服というのは持っていなくて……専用に仕立ててもらっても良いのですが、魔法の訓練はそこまで激しい運動をするものでもないので、私服の中から適当に選んでいます」
エルはそう言って苦笑している。
「あ、そうなんだ。どうりで……」
「さて、それじゃあ行こうか。中庭だったよね」
「はい、こっちです」
エルについて中庭へ行くとカイゼルさんが給仕の方と一緒に待っていた。横には台があってその上に色々な物が置かれている。カイゼルさんも訓練のためかマントを脱いでいた。
「お待ちしておりました。それでは早速始めましょうか」
「あ、お父様。結衣に魔法を――」
「おお、そうでしたね。結衣、じっとしていてくださいね」
「は、はい」
カイゼルさんは昨日と同じように結衣の額へ手を伸ばす。結衣は緊張で直立して硬くなっている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
カイゼルさんは結衣の様子を見て笑うと、額に手を当て何言か呟いた。カイゼルさんの手が一瞬だけ光る。
「これだけ、ですか?」
特に結衣に変わったところは見えない。私は思わず尋ねた。
「はい。これで結衣も魔法が使えるようになっている筈です」
「どう、結衣。何か変わった?」
「うーん、何も変わってない気がする」
「目に見えるものではありませんから――おや」
カイゼルさんの声が急に止まった。
「どうされたのですか」
「いえ、どうやら結衣も魔法使いのようですね」
そう言ってカイゼルさんは笑う。
「え……あ! 髪の色が」
結衣の髪が少しずつ青味を帯びていく。
「青……と、いうことはエルと同じだね」
「はい! なんだか嬉しいです」
二人は手を取り合って喜んでいる。エルは深い青なのに対して、結衣はどちらかというと水色に近い色をしている。
「そういえば、私の瞳はどう? 魔力が強いと瞳の色も変わるんだよね」
エルが結衣の目を覗き込む。
「瞳の色は変わっていないみたいです」
「そっか……仕方ないことだけど、私だけ魔力が低いんだね」
結衣はしょんぼりとしている。
「いえ、魔力が低いなんてとんでもありません。髪の色が変わったということは、結衣もそれだけの魔力を持っているということです。それに、エルも元は瞳の色は変わっていませんでした」
「あ、そうなんだ」
「結衣、そこはもっと喜ばないと」
「えへへ、それもそうだね」
「さて、それでは早速魔法の訓練を始めましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「そうですね……丁度結衣の得意な属性が水なので水属性の魔法にしましょう。こちらへ来てください」
カイゼルさんに従って中庭にある噴水の前へと移動する。
「最初ですから、簡単なものから始めましょう。これを手に持ってください」
私と結衣は給仕の方からグラスを受け取った。エルのグラスは私達の倍くらい大きい。
「まずは水属性魔法の基礎。水を出す魔法です。エル、手本を」
「は、はい。見ていてくださいね」
エルの手が少し震えている。緊張しているのかな。
『水よ!』
エルが一度、大きく深呼吸をしてそう言うと、突然グラスに水が溢れた。
「凄い……」
結衣も目の前で起きた出来事に驚いている。
「ふう、緊張しました。いかがですか?」
「信じられないよ。夢みたい」
「今のが水属性魔法の初歩、湧水の魔法です。エルには何も入っていないグラスを使ってもらいましたが、お二人は初めてですので、グラスに水が少し入っていた方がやりやすいと思います。そこの水を少し汲んでください」
カイゼルさんに言われた通り、私達は噴水の水を少し汲む。
「では、結衣からやってみてください。グラスに水が入っている様子を強く思い浮かべながら、『水よ』と、詠唱してください」
「結衣、がんばってくださいね」
「うん、ありがとうエル。それじゃあいくね……」
『水よ』
結衣が詠唱するとグラスに入った水が一センチほど増えた。
「これだけ……?」
結衣は少ししか増えなかった水を見てがっくりしている。
「初めてでそれだけ出来れば大したものです。結衣は才能があるみたいですね」
「だって。結衣、凄いじゃない」
「凄いです」
「えへへ。そ、そうかな」
皆から一斉に褒められて結衣が照れている。
「これは私も負けてられないね」
「ふふ、がんばってくださいね」
「がんばってね」
「それでは麗奈もやってみてください」
「はい」
私がグラスに水が入る様子を強くイメージすると突然、指輪が強い光を放つ。
「これは……!」
「わ……」
「まあ……」
私を含めてその場に居た全員が驚愕の表情を浮かべる。グラスからはバケツを返したように大量の水が溢れる。そして、暫くすると溢れていた水は止まり、指輪の放つ光も収まった。それと同時に全身に力が入らなくなって、その場にへたり込んでしまった。
「麗奈!?」
結衣が助け起こしてくれる。
「お父様、これは一体どういうことですか?」
「麗奈、少し失礼」
カイゼルさんが私の首筋へ手をかざす。そのまま少しすると、体に力が入るようになった。
「もう大丈夫みたいです。それにしても今のは一体……」
「どうやら麗奈は魔力を使い果たしてしまったようです。その光った指輪を見せていただけますか」
そう言われて田沢さんから貰った指輪を渡す。カイゼルさんはその指輪に少し指を触れてから頷いた。
「なるほど。やはりそうですか」
「その指輪に何か問題でも……」
「いえ、問題というわけではありませんが、この指輪には魔法を強める効果があるみたいですね」
「魔法を強める効果ですか?」
「はい。ただ、それには膨大な魔力を使うようで、そのせいで麗奈の魔力を使い果たしてしまったのです。魔力が無くなると今のようになってしまいます」
「まさか、この指輪にそんな効果があったなんて……」
「田沢さんからおまけで貰っただけなのにね」
私は指輪を受け取ってポケットに入れる。
「さて、今は私の魔力で動けますが、少し休まれた方が良いでしょう。エル、この水を片づけてくれないか」
「はい」
『今、此処に有りし水よ、我が意に従え!』
エルが両手を胸の前へ突き出して詠唱すると、私の出した水が噴水へと移動していく。そして数秒で元通りになった。
「凄い……なんだか今日はこればかり言っている気がするよ」
そう言って結衣は笑っている。
「でも、本当に凄いよね」
「私が今使った魔法は従水と呼ばれるものです。お二人も少し練習すれば使えるようになりますよ」
「それでは一度戻りましょう。そうですね……今日はもう魔法の練習はできそうにありませんし、お昼からは一度町を見に行かれてはいかがですか」
「あ、私見たい」
「うん、私も見てみたいな」
「では私が案内しますね」
「エル、ありがとう」
「ん、エル。昼からは公務があった筈だが……」
「あ……」
エルが、忘れていたという表情をしてうなだれる。
「はっは、冗談だ。私が代わりに片づけておくから行ってきなさい」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
エルが満面の笑みを浮かべる。
「それではまた夕食の時に話を聞かせてください」
そう言ってカイゼルさんは戻っていった。私達も中庭を少し見てから部屋に戻った。




