第11話 銀色と光魔法
あれ? 此処は一体……ああ、そういえば別の世界に来ているんだった。カーテン越しに差す朝日で目が覚めた私は、まだ寝ている二人を起こさないようにしてベッドから出た。結衣はエルをしっかりと捕まえて抱き枕にしている。少し羨ましい。
私は服を着ると、二人のずれた布団を掛け直してから、出来るだけ音をたてないようにして部屋を出た。
「おはようございます。お早いですね」
扉のすぐ横に給仕の方が控えていた。昨夜私達を案内してくれた人だ。もしかして夜の間もずっとここに居たのかな。
「おはようございます。目が覚めてしまって……」
「そ……そうでしたか。よろしければ何かお飲み物でもいかがですか?」
「あ、お願いします」
今、私と目があった時に少し驚かれたような気がしたけど、気のせいかな?
「それでは中でお待ち下さい。すぐにお持ちいたします」
そう言って給仕の方は一礼してから去っていった。
「失礼します」
私が椅子に座って少しすると、ティーポットとカップをトレ―に載せて先程の給仕の方が入ってきた。慣れた手つきでお茶の用意をしていく。
「これは何ですか?」
ティーポットには綺麗な琥珀色の液体が入っている。
「こちらはアンベルという飲み物で、この国の名産品でございます」
給仕の方が注いでくれたアンベルは、何とも言えない不思議な良い香りを湯気とともに漂わせている。早速一口飲んでみた。
「あ、美味しい」
適度な渋みと仄かな甘みが寝起きの体に心地良い。
「それでは、また何かございましたらお申し付けください」
私が飲み終えると、カップを片づけて給仕の方は一礼してから部屋を出ていった。
それから暫くして、私が窓から見える中庭の景色を眺めているとベッドのほうで音がした。エルが目を覚ましたみたい。お互いに服を着ていない状態で抱きつかれている事に気付いて、顔を赤くしている。
「エル、おはよう」
「あ、おはようございます」
「……う~ん。おはよ~」
私がエルに声をかけると結衣も目が覚めたようで、ようやくエルが解放された。
「どう? エル、ぐっすり眠れた?」
そう言って私はベッドの脇にある椅子に座る。
「昨晩は恥ずかしくて眠るどころではなかったのですが、気がつけば寝てしまっていたみたいです。よく眠れました」
「私も麗奈とエルに挟まれて快適だったよ。そういえば今日は……!」
結衣は私の顔を見た途端驚愕の表情を浮かべる。
「結衣? もしかして私の顔に何か付いてる?」
私がそう言ってエルのほうを見るとエルも同じように驚いている。
「麗奈、銀色になってる……」
そう言って結衣が私の顔を指さす。
「うん、そうだけど昨日からだし、そこまで驚かなくても。まあ、私も目が覚めた時は少しびっくりしたけど――」
「ううん、そうじゃなくて目」
「目?」
「そう。麗奈の目……瞳が銀色になってる」
「え!?」
私は急いで部屋に置かれている鏡を見る。鏡に映った私の瞳は髪と同じ銀色で穏やかに光を放っている。
「昨日はこんなことなかったよね?」
「うん、寝るまでは特に変わった様子はなかったよ」
「おそらく魔法の影響だと思います。朝食の時にお父様に聞いてみてはいかがですか?」
「そうだね。カイゼルさんなら知っているかも。それじゃあ、準備が出来たら行こうか」
「はい。服を着るので少しお待ちください」
そう言ってエルは服を着ていないことに改めて気付いて、再び顔を赤らめた。
身支度を整えて、私達は部屋を出た。部屋の前に控えていた先程の給仕の方に案内されて、大広間へと向かう。
「それにしても、今の麗奈は宝石みたいだね」
結衣が歩きながら私の顔を覗き込む。
「ええ、神秘的な輝きで本当に綺麗です」
「あはは、ありがとう」
そんなことを話している間に大広間へ着いた。給仕の方に扉を開けてもらって中に入ると昨日と同じ位置にカイゼルさんとセリアさんが座っていた。向かい側に私達も座る。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか――おや」
カイゼルさんの言葉が私の顔を見て止まった。
「おはようございます。朝起きた時から瞳の色が変わっていたのですが、これは一体……」
「なるほど、ご安心ください。それほど珍しいことでもございません」
「そうなのですか?」
「はい。それについては魔法の説明と共に食事をしながらお話しましょう」
そう言ってカイゼルさんが手を叩くとテーブルに料理が並べられる。
「さあ、どうぞお召し上がりください」
朝食は焼きたてのパンとスープ、赤いオムレツに初めて見る野菜のソテーでどれも食欲をそそるいい香りを漂わせている。
「わ~おいしそう~。いただきます」
結衣が早速パンを頬張っている。
「うふふ、そんなに慌てなくてもパンは逃げませんよ」
「えへへ……」
エルに笑われて結衣が照れている。一日で随分と仲良くなったみたい。カイゼルさんとセリアさんも嬉しそうに微笑んでいる。
「さて、魔法についてですが、魔法には精霊の持つ力を各々の魔力によって具現化するものと、魔力を利用して対象に働きかけるものの二種類あります」
「精霊……」
私も結衣も聞き入っている。
「ああ、どうぞ食べながら聞いてください。
この世界では全てのものに精霊が宿っています。そして精霊は火、水、風、土、をそれぞれ司る四種族に分けられ、これら四属性の力を具現化する魔法を精霊魔法と呼びます。火を出したりするものが典型例ですね。
次に、魔力を直接対象に働き掛けさせる魔法ですが、これには昨日、結衣にかけた翻訳の魔法等があります」
話を聞いていると本当に現実なのかと思えてくる。結衣も同じみたいで、呆然として聞いている。
「えっと、その魔法は誰でも使うことが出来るのですか?」
もしかして、これまでの人は全員魔法使いだったのだろうか。
「はい、魔力は強さの違いはあれど、誰しもが持っているものです。小規模な魔法であれば、誰でも使うことが出来ます」
「それでは、カイゼルさんやフェルディさんも魔法使いなのですね」
「いえ、そういうわけではございません。私は確かに魔法使いですが、フェルディは違います」
「そうなのですか? しかし、先程魔法は誰でも使うことが出来ると……」
「なるほど、そういうことでしたか。確かにフェルディも魔法を使うことはできますが、この世界では、特に魔力が強力な者だけを魔法使いと呼んでいるのです。魔法使いは数千人に一人しかおりません」
「数千人に一人……カイゼルさんって凄いんですね……」
結衣が驚いている。
「ははは、ありがとうございます。魔力は生まれ持った資質によるところが大きく、遺伝によって受け継がれる事が多いため、魔法使いの子は基本的に魔法使いになります。ただ、そうでない場合もあれば、親が魔法使いでなくても、魔法使いの子が生まれることも稀にですがあります」
「と、いうことはエルも魔法使いなのですね」
「はい、魔法使いには特徴がありまして、魔法使いはそれぞれ得意とする属性があります。これも生まれ持った才能によるもので、これには遺伝は関係ありません。そしてその属性によって、髪の色が変わるのです。火属性が得意であれば赤、水なら青、風の場合は緑、土であれば金色になります」
「あ、それならエルは水属性が得意なんだね」
結衣がエルの髪を指して言う。
「はい。お父様は土、お母様は火の属性が得意です」
「また、髪の色だけでなく、その者の魔力がより強力である場合は瞳の色も変わります」
「あ、それでは私の瞳の色が変わったのは……」
「ええ、麗奈の魔力によってです」
「あれ、でもさっきの話に銀色の属性はなかったよね?」
結衣が不思議そうな顔をしている。確かに、私の属性は何なのだろう。
「それについては、先程属性には四種類あるとお話ししましたが、実はもう一つあるのです。それについて説明する前に、四つの属性の位置関係について聞いていただく必要があります。四種の属性は環のようになっており、火の両隣には風と土があります。そして火の対極は水です。これは得意とする属性以外の魔法をどの程度使うことが出来るのか、ということを表しています。つまり、私の場合は土なので両隣は火と水、対極は風ですね。私は土属性の魔法は最大限使うことができます。また、火属性と水属性の魔法もある程度使うことができます。しかし対極に位置する風属性の魔法については、ほとんど使うことができません。そうですね……布を一枚飛ばすのがやっとでしょうか」
「魔法を使ったことがない私からすれば、それでも十分凄いです」
「ははは、麗奈ならそれくらい簡単にできますよ」
「そうなのですか?」
「はい――さて、四属性の位置関係については説明しました。もう一つの属性というのは四属性の環の中心部に位置する属性で、光属性といいます」
「光属性……」
「光属性は世の理を司ります。光属性を得意とする者は四属性全てを最大限使うことができ、また世の理を操り、不可能を可能とすると言われる、光属性の魔法を使うことができます。そして光属性の魔法を得意とする者の特徴は、光を放つ銀色の髪なのです」
銀色の髪……今聞いたことが全て本当だとすると、とてつもない事ではないだろうか。
「光属性の魔法を扱うことの出来る者を私は二人しか知りません。おそらく、他には存在しないでしょう」
「その二人、というのは……」
「一人はリニアス、もう一人はその力を解放した麗奈、貴女です」
「冗談……ではありませんよね」
「はい、全て本当のことです」
「麗奈……凄いね……」
結衣は開いた口がふさがらないといった感じで、私自身も呆然としている。エルとセリアさんも非常に驚いている。
「魔法の説明はこれくらいですね。折角ですから、魔法を使ってみてはいかがですか? 今日はこの後エルが魔法の練習をしますから、一緒にされてみてはどうでしょう」
「麗奈、やってみようよ」
信じられない様なことばかりで驚いたけど、思えば自分が魔法を使えるなんて夢みたい。
「うん。カイゼルさん、是非お願いします」
「それでは、三十分後に中庭でお待ちしています。エルと一緒に来てください」
「分かりました」
既に朝食を食べ終えていた私達は一度部屋へ戻ることにした。




