帰らなかった役員
行方不明になった元輸送会社役員の妻は、夫が予定していた病院の診察に来なかったと話した。旅行の準備もなく、携帯電話だけが家に残っている。アンリは家族の希望を聞きながら、いつもとは異なる失踪の可能性を調べた。
近所では男が早朝に散歩する姿が知られていた。商店主が昨日も会ったというが、日付を確かめると一週間前の話だった。警察は誤解を責めなかった。
午後、道路沿いで男の車が見つかった。鍵はかかり、事故の痕跡もない。車内には古い帳簿の複写と雨具が置かれていた。
妻は帳簿のことを知らないと言い、夫が過去の仕事を話さなくなっていたと涙ぐんだ。アンリは詳しい捜索予定を説明し、連絡先を渡した。
役員の妻は夫の手帳を警察へ預けた。通院日や親族の誕生日は丁寧に書かれているのに、失踪前の数日だけ予定が空白だった。アンリは予定を消したと判断せず、日頃から書かない日もあったのか確かめた。妻は旅行へ出る前にも同じような空白があったと答えた。捜索隊は川岸を調べ、近くの山道では地元の消防団が協力した。消防団員の一人は男と昔同じ学校へ通っていたという。仕事上の秘密など知らず、ただ無事でいてほしかった。夕方、車に残っていた帳簿の一部に、信託の送金先と同じ略号が見つかった。アンリは紙の出所を確認し、複写した。失踪が犯罪だと決めるのは、まだ早かった。
署へ戻ると、マチューから屋敷の管理会社について照会が届いていた。失踪者の名前は古い契約書に一度だけ現れている。アンリは関係を決めつけず、署名が本人のものか調べることにした。




