礼拝堂の戸口
山あいの礼拝堂では、毎月の施しの準備が進んでいた。管理を手伝う老人パスカルは、寄付者名簿にラ・ヴェーヌの名を見つけた。かつてはこの信託が屋根の修理費を払っていたらしい。
ナディアの取材に応じた彼は、古い名前について詳しく知らないと答えた。ただ、数年おきに見慣れない法律家が寄付契約を確認しに来るという。
「誰が来たか覚えていますか」
「名前までは。私はここの鍵を開けるだけです」
礼拝堂では結婚式も葬儀も行われる。老人は祭壇の花を取り替え、雨漏りの場所へ桶を置いた。記者が帰った後も仕事は続いた。
午後、配達員が厚い封筒を届けた。中には来年度の寄付契約を更新しない旨が記されていた。屋根の修理費は誰が出すのか。パスカルは司祭と相談し、町に助成を求めることにした。
翌月の修繕費をめぐり、礼拝堂では小さな会合が開かれた。若い司祭は寄付が減ったことを隠さず説明し、地域の人々へ協力を求めた。昔から来る老婦人が古い写真を持参し、屋根を直した時の職人たちの名を挙げた。その中には屋敷の庭師の父親もいたという。ナディアは偶然の接点だと考え、取材を続けた。パスカルは出席者へ熱い飲み物を配り、集まった金額を丁寧に数えた。翌朝、町からも小さな助成金の申請書が届いた。古い信託が退けば全てが終わるわけではないが、代わりの支えを作るには多くの手が必要だった。 寄付帳の余白には、長年名前を出さずに協力した住民も記されている。予算より人の手が先に集まる日もあった。
書類の最後には、代わりの窓口として首都の会館の住所が書かれていた。名誉職の欄と同じ住所だった。




