相手を知らない告発
県都で開かれた記者会見に、傷害事件の被害者の代理人が現れた。長引く捜査への不満を訴え、警察にはより積極的に情報を公開してほしいと求めた。被害者本人は出席しなかった。
ナディアは会見後、代理人に会った。乳児死亡事件との関係について尋ねると、確たる証拠はないという。ただ複数の被害者が同じような質問を受けたと聞いている。
「母親が犯人だと考えていますか」
「人の名を公にするには、まだ足りません」
ナディアはその返事を尊重し、記事には書かなかった。
その日の夕刊では、町の橋の修理費を巡る議会の論争が大きく扱われた。取材先から電話が続き、記者たちは遅くまで働いた。
夜、ナディアは会見の録音を聞き直した。代理人は最後に、事件後の生活が壊れた人々を忘れないでほしいと言っていた。
会見の記録を整理する途中、ナディアは以前取材した別の負傷者の家族から電話を受けた。記事に顔を出したくないと頼まれ、彼女は了承した。匿名にすれば安全だとも限らない。住む町や働いていた会社を詳しく書けば、近隣には誰の話か分かってしまうことがある。編集部では匿名の扱いを改めて協議し、確認できたことと公表すべきことを分けた。夜、ナディアは机の上に残った家族の写真を裏返した。取材の許可を得た写真だったが、今夜それを公開する必要はない。廊下では清掃員がごみ箱を片づけ、明日の新聞を積む場所を空けていた。 代理人の横では、同僚が次の相談者のために椅子を並べていた。
彼女はその部分を記事に残した。誰が犯人であっても、傷害事件の被害者が明日も暮らしていかなければならない事実は変わらない。




