途切れた電話
国境の向こうの警察署から、マチューへ連絡が入った。宿屋に滞在した女性について調べていた担当官が、別の事件で異動するという。新しい担当者へ引き継ぐため、照会内容を整理したいと頼まれた。
マチューはクレールの写真と事件概要を送り、傷害事件の容疑者と断定していないことを明記した。
夜になって、引き継ぎの途中で電話回線が切れた。通信障害だったが、アンリは珍しい偶然だとつぶやいた。マチューは修復記録を確かめた。町の一帯で電話とネットが止まり、病院や商店も困っていたらしい。
翌朝、担当官から謝罪の連絡が来た。宿帳を調べ直すと、クレールの署名は正規のもので、偽名の痕跡はなかった。しかし出発した先は分からない。
マチューは礼を述べ、引き継ぎの受領確認を求めた。異動した人間の机にだけ資料が眠れば、疑いはいつまでも同じ場所を回る。
外国の担当官は宿の帳簿のほか、駅前の商店へも照会した。女性らしい旅行客が古い地図を買ったという証言はあったが、売れた地図の種類はどれも同じだった。クレールの姿に似た人物を見たという人も、写真を見せられると自信をなくした。マチューはすべての記録を受け取り、確定した移動と推測の移動を別の色で書き分けた。紙の上では線が増えていくが、線の先に誰かがいると証明できるわけではない。アンリは地図を畳み、次の休日には両親のもとへ帰ると告げた。捜査に区切りを付けることと、人間が休むことは別々に必要だった。
窓辺には、同僚が持ってきた温かい菓子が置かれていた。電話がつながる日常が戻ったことで、署員はようやく別件の相談にも応じられるようになった。




