言い直された日付
ローズはマチューの前で、事件当日の時刻をもう一度言い直した。最初の聞き取りでは、灰色の上着の人物を午後三時に見たと話していた。だが薬局から帰ったクレールの時間を思い出すと、その一時間前だった気もする。
マチューは時計を示して答えを急がせなかった。人は後から知った事実で記憶を組み替えることがある。ローズにとって、その日は何年たっても重い。
「正しいことを言いたいのに、分からなくなるの」
「分からない部分は、そう書きましょう」
面談を終えると、ローズは市場で野菜を買った。店主が値段を間違え、二人で笑って訂正した。こういう小さな間違いを責めずに済む日常が、今はありがたかった。
夕方、マチューは変更の経緯を調書へ残した。最初の証言を消してしまえば、どこで何が変わったのか後から誰も分からなくなる。
同じ日に、中央保管施設から封筒が届いた。旧承認印を使っていた部署の名称は分かったが、最後の責任者欄はまた空白だった。
ローズは帰宅すると、古い時計を机に置いた。事件の日も同じ時計を見たはずだが、今は針の位置が少しずれている。修理したのは昨年の秋で、以前から遅れが出ていたと時計屋に教えられた。彼女はマチューへ電話し、その事実を追加した。担当官は時計の遅れが当日の何分を示すか確定できないと伝えた。ローズはそれでよいと言った。分からないことを隠したくなかった。夜、孫から届いた絵葉書に短い返事を書き、時計を壁へ戻した。時を刻む音は変わらない。けれど、その針が指していた日を誰かが正しく覚えているとは限らなかった。
ローズの記憶も、施設の記録も、空白を空白のまま残していた。




