見えない手数料
アルマンは信託の古い規約を読んでいた。財産を守るため、土地を管理する法人が複数設けられている。名目上の理事は替わっても、ひとつの承認権だけが同じ窓口を通り続けていた。
請求書には管理手数料が細かく並ぶ。額そのものは不自然ではない。だが承認のための費用を受け取る先が、公開名簿に載っていなかった。
「お金が動いているなら、人もいるはずですよね」補助員が言った。
「組織の名で動く金もある。誰かの存在を数字だけで決めるな」
彼は銀行へ取引の確認を申し込み、返事を待つことにした。
夕方、近隣の古い夫妻が相続相談に来た。子どもたちが離れて暮らすため、家を残すか売るか迷っているという。アルマンはそれぞれの希望を聞き、決断を急がせなかった。
相談を終えた夫妻が手をつないで帰るのを見て、補助員は家が続くことと血縁が続くことは同じではないと言った。アルマンは何も返さず、信託の書類へ戻った。
銀行から届いた回答では、手数料の受取人は法人だった。登録された代表者の名は公表されているが、実際に承認を与えた人物の記録は残っていない。アルマンは法人が正当に設立されているかを別途調べた。必要な資料を求めるたび、個人情報や財産の保護に関する条件が付く。それらを無視してまで知る権利が、自分にあるわけではなかった。夜、補助員は赤い線の付いた系図をもう一度見ようとしたが、アルマンは今は公的な台帳を優先すると告げた。噂が人の名を増やす一方、法的な証明は数を減らす。減って残ったものだけが、誰かの権利を守れることもある。
未記入の承認欄は、そこで長年使われ続けていた。




