傷のある靴
県境の古い駅で、清掃員が血の付いた靴を見つけた。警察が現場を確認し、持ち主を探した。近くで暴行事件があったという情報もあったが、同じ出来事かは分からない。
靴の大きさから女性だと決めつける者がいた。アンリは捜査会議でそれを制した。サイズは持ち主の性別を証明しないし、血が誰のものかも検査前には分からない。
駅員は前夜、具合の悪そうな男性に水を渡したと話した。記録映像に似た人物が映っているが、時間が合わない。警察は駅員の証言を丁寧に取った。
午後、迷惑行為を繰り返していた若者が事情を聞かれた。彼は靴を捨てたのは自分だと言ったが、血の理由を説明できなかった。後に医療機関で治療を受けた知人のものだと判明した。
アンリは事件の関連を一つ否定し、資料に理由を記した。肩透かしだと愚痴をこぼす職員もいた。
「違うものを違うと書けたなら、今日は前に進んでいます」
保護した若者は、知人がけがをした晩に靴を預かったと説明した。医療機関の記録と照らすと、少なくともその説明には裏付けがあった。アンリは若者に無関係と伝え、疑いが広まらぬよう発表の文言を整えた。失踪者の妻からは、捜査への連絡が遅いと苦情が来ていた。アンリは対応を後回しにせず、分かっている事実を丁寧に説明した。まだ返事のない照会を明らかにすることはできないが、捜索が続いていることは伝えられる。若い巡査が駅から運ばれた靴を証拠棚へ戻すと、空になった捜査用の箱が一つ残った。事件に近づかなかった日にも、処理すべき仕事は多かった。
それでも帰りの車内で、アンリはクレールの写真を見返した。顔を知っていることと、居場所を知っていることは違った。




