雨上がりの尋問
県境の町で保護された元輸送係の男は、病院の寝台から窓を見つめていた。顔や腕に負傷があり、眠るたび同じ声を聞くという。担当の刑事は医師の許可を待ってから話を聞いた。
「何を聞かれましたか」
「管理印を誰が持つか、と。答えた名前は違うと言われました」
男は相手の顔を思い出そうとしたが、明るい灯りの形ばかりが先に浮かんだ。質問したのが女性だったこと以外、確かな特徴を言えない。警察は記録を残し、身元の推測を避けた。
病室に来た息子は、父が十年前に辞めた仕事のために襲われたと知って怒った。刑事は捜査の範囲を説明し、家族の安全について相談窓口を案内した。
夕刻、男は紙に一つの名を書いた。ラ・ヴェーヌ。それが組織か土地かさえ分からないという。刑事が続きを促しても男は首を振った。
男が書いた名前は、他の被害者の供述にもわずかに現れていた。だが聞かれた順番も口調も一致せず、同じ人物が尋問したと断定はできない。刑事は病院の相談員に、これ以上の聴取が心身へ与える影響を尋ねた。医師は回復には時間が必要だと言い、しばらくは面談を控えるよう求めた。家族には、無理に記憶を確かめないことが勧められた。息子は納得できずにいたが、父の手が震えるのを見てうなずいた。部屋に残された紙を刑事が封筒へ入れると、男はようやく目を閉じた。そこに書いた名を、思い出す必要のない朝が来ることを家族は願った。 また話せる日が来れば、その時に続きを聞くと刑事は約束した。
病室の扉を閉めると、廊下で掃除係が新しいシーツを運んでいた。治療を受ける者には、長い夜を越える場所が必要だった。




