古い送金先
ルイーズは会計会社の法務担当から許可を得て、屋敷管理法人の古い送金先を調べた。海外口座の番号は何度も変わっているが、請求書の宛名には同じ略号が続く。引き継ぎのために付けられた部署名の可能性もある。
彼女は取引先へ確認の手紙を出した。会社の営業担当は関係を悪くするなと気にしたが、監査の義務を無視すればもっと大きな問題になる。
昼休みに退職を決めた同僚が最後の挨拶に来た。机の引き出しには家族写真だけが残っていた。皆で小さな菓子を分け、急な転勤の話をしないまま見送った。
夕方、海外の保管窓口から返事が届いた。略号は口座名ではなく「ラ・ヴェーヌ信託の指定管理分」を示すという。ルイーズは聞いたことのない名を調べたが、公開資料には古い寄付契約があるだけだった。
信託の名前を教えた窓口は、書類に押された印も送ってきた。ルイーズはそれが屋敷の見積書にあったものと形が似ていると気づく。印影の縁は摩耗しており、長く使われた道具らしい。ただ古い契約先なら、同じ印を複写して再利用することもある。彼女は自分の判断で相手を不正と呼ばず、専門の監査人へ比較を依頼した。休憩時間、退職した同僚から新しい仕事が決まったと便りが届いた。父親の通院に付き添える場所にある小さな会社だという。彼女は祝福の返事を書き、机に戻った。古い金の流れを追う仕事にも、新しく始まる生活にも、それぞれ時間が要る。
法務担当は身元の確かな回答だと確認し、これを監査の添付資料に加えた。屋敷と信託の関係が分かったわけではない。それでも、何年も数字としてしか見なかった支払先に、初めて言葉が付いた。




