差し戻された封筒
地方行政局の書類担当エリーズは、宛先が同じ封筒を二度見た。宛名はヴァルノワの憲兵隊。差出人は県の医療記録室。ところが差し戻し理由には、受取部署の廃止と印字されていた。
ヴァルノワの憲兵隊は廃止されていない。職員数は少ないが、先週も報告書を受け取っている。エリーズは担当課へ電話した。
「宛先の変更はありますか」
相手は調べると言ったきり、長く戻らなかった。結局、正規の手続きを踏んで送り直してほしい、とだけ答えた。
封筒の中身を開く権限はない。それでも配送台帳には管理番号が残る。エリーズは番号を控え、再送付の理由に『部署存続確認済み』と書いた。
配送係は午前中に二度、封筒を引き取りに来た。エリーズは手続きが終わっていないと説明し、配送係も決して急かさなかった。彼にも回るべき村が六つあり、雪が降れば夕方の便に遅れる。宙に浮いた封筒だけが、いつまでも同じ机にあった。
昼休み、同僚は新しい勤務割について不満を言っていた。中央から来る書類が増えるのに、人は増えない。そんな会話をしている間にも窓口には長い列ができた。老夫婦が年金の書類を出し、若い父親が出生届の記載方法を尋ねた。
窓口の前では、待っていた人同士が椅子を譲り合っていた。エリーズはそういう小さな親切が残る町を嫌いではなかった。
午後、上司から電話が入った。例の封筒は送らなくていい、中央で処理すると言う。
「差し戻しを取り消す決裁はどなたですか」
上司は答えず、後で紙を渡すと言った。
終業までに紙は届かなかった。エリーズは封筒を施錠庫に戻し、発送済み欄を空白にした。
誰かの命令が届くまで、書類の行き先は決まらなかった。




