名を出さない会合
首都の古い会館で、法律事務所と慈善団体の代表が会合を開いた。議題は施設の維持費と役員交代についてだった。出席者の一人は、地方で続く行政照会が予想以上に長引いていると報告した。
「法的な問題はありますか」
議長は尋ねた。
「現時点で断定できません。資料が散在しています」
会議は穏やかに進み、誰もヴァルノワの乳児の名を口にしなかった。参加者には福祉事業の予算を気にする者もいれば、建物の売却を提案する者もいる。全員が同じ秘密を共有しているとは限らない。
議事録の最後には、名簿上の空席が一つあった。古くから名誉職として残る役職で、選任方法は公開されていない。議長はその席について質問されると、従来どおりと答えた。
会合の食事係は、名前のない空席にも毎回水を置くよう指示されていた。誰も座らないのに、なぜ必要なのか知らない。昔からの決まりだから、と言われたきりだった。書記が理由を尋ねると、議長は名誉職への敬意だと答えた。その説明に疑問を持つ者もいたが、維持費や人員整理の議題の方が切実だった。閉会後、出席者の一人が議長へ別室で相談したいと申し出た。書記はその記録を作らず、翌日の会議室予約を確認した。廊下の時計だけが、定刻を知らせていた。
会館の裏口では年配の運転手が主を待っていた。若い頃からこの場所を往復しているが、会議室の中を見たことはない。迎えに来る時刻だけを守り、冬の路面状況を気にしていた。彼が知るのは、窓に灯りがともる時間だけだった。
窓の外では雨が降り、会館の前で警備員が傘を配っていた。会合を終えた人々は夕食の約束を交わし、それぞれの車へ乗った。
議事録を作る書記は、空席の欄を埋めなかった。そこへ誰が座るか知らないまま、翌月の会合予定を書き込んだ。




