遠ざかる呼び鈴
ローズは玄関の呼び鈴が鳴るたびに、灰色の上着の女を思い出すようになっていた。昨年までは近所の子どもたちが気軽に門を押し、花を分けてもらいに来た。今は足音がするだけで、窓から確かめてしまう。
地域の医師は体調を尋ね、無理に記憶を掘り起こさないよう伝えた。ローズは孫が訪ねる日には、できるだけ普段どおりに暮らした。焼き菓子を作り、庭の葉を集める。
ある午後、ジュリアンが花の苗を持ってきた。ルカの墓に植えるためのものだという。二人は袋を開き、根を傷つけないように植え替えた。
「クレールは、これを見たら喜んだでしょうか」
ローズは尋ねた。
「前なら、きっと」
ジュリアンは言い切れなかった。現在の妻が何を喜ぶのか、分からない。遠くで何かを追っているとだけ知っている。
ローズの孫は、祖母が以前より電話を長く話すようになったと気づいていた。無事を確かめたいからだと説明され、孫は毎晩短い連絡をするようになった。小さな約束は、ときに長い説明より役立つ。ある晩、ローズは電話の向こうで子どもが笑う声を聞いた。以前なら胸が苦しくなったが、その日は少しだけ笑えた。翌朝、彼女は花壇の土を柔らかくし、ルカの墓に供えるための花を選んだ。遠くへ行ったクレールにも、こんな朝があればよいと思った。
夕方、憲兵隊がローズへ再度連絡した。事件当日の訪問者について、新しい証言が出ているらしい。ローズは面談を受けると答えた。怖いから黙ることもできたが、誤った記憶を正したい気持ちもあった。
雨が上がると、花壇に植えた苗が少しだけ立ち直っていた。




