証言の温度
マチューは県都の被害者と再び面会した。男は退院後、しばらく外へ出られなくなっていた。以前は大きな声で仕事の話をしていたというが、今は電話の音にも肩を震わせる。
「その女は怒っていましたか」
「いいえ」
「声を荒らげることは」
「ありませんでした。だから余計に」
男は言葉を切った。知っていることを話しても、求められた名前が出てこないかぎり終わらなかったという。警察官は苦痛を受けた過程を無理に詳述させず、必要な情報だけを確かめた。
病院の心理相談員は、証言が遅れる可能性を説明した。記憶が曖昧だから嘘というわけではなく、鮮明だから正確とも限らない。マチューはその説明を捜査ノートに書いた。
聞き取りを担当した若い警察官は、被害者の語る質問の順番に注意した。最初は仕事上の知人を尋ねられ、やがて家族の話へ移ったという。男は覚えている範囲で答えたが、どこまで正確か自信がない。警察官は不確かな部分を不確かなまま記録した。供述から犯人の心を説明することはできない。ただ、自分が知らない答えを要求されたという恐怖は、男の夜を今も支配している。その言葉を軽く扱えば、次の面談で何も話してもらえなくなるだろう。
帰り道、男の妻が廊下まで送ってきた。彼女は犯人を捕まえてほしいと訴えた。マチューは約束できることだけを答え、連絡先を渡した。
署に戻るとクレールの古い写真が机にあった。若い母親が赤子を抱いて笑っている。マチューは写真を裏返さず、被害者の供述と並べた。どちらか片方だけが事実だとは、彼には思えなかった。




