消えなかった台帳
診療所の移転準備で、古い書類を処分するための一覧が作られた。保管期限を過ぎたものは廃棄するが、訴訟や調査の対象となる記録は残さなければならない。看護師イザベルは一覧にルカの診察記録を見つけ、処分対象から外すよう申し出た。
事務長は理由を確認し、関連資料の保存を指示した。誰かの疑念のためではない。定められた義務を果たすためだった。
移転先は以前より駅に近いが、山裾の村から来る人には不便になる。診療所の前では、高齢者が署名を集めていた。イザベルは患者の話を聞き、移動手段について町へ相談した。
午後、シモンが検査室から届いた照会一覧を持ってきた。そこには受領番号の変更だけでなく、保存対象の指定日が記されていた。その指定日は、中央機関が関与するより一週間前になっていた。
「先に決まっていたんでしょうか」
イザベルが尋ねた。
「その可能性がある。でも日付の誤記かもしれない」
診療所を去る予定の古参医師は、ルカの診療記録をもう一度確認した。健康状態について当時の判断に誤りは見つからない。それでも母親に納得できる説明がなかったことを、今も悔いているという。イザベルは黙って聞き、医療には分からないと伝えなければならないことがあると答えた。医師はうなずいた。移転の荷物には、長年患者からもらった感謝の手紙も混じっていた。小さな診療所の終わりは、ただ建物が変わるだけのことではなかった。
二人は根拠になる文書を求めることにした。正しい答えが出るまで、廃棄を止める理由は十分だった。
夜、移転準備の箱は半分だけ片づいた。廊下に残る書類は、まだ誰かの責任のもとにあった。




