名前を失った部署
地方行政局へ、新しい省庁の担当者から古い医療資料に関する照会が届いた。エリーズは依頼文を読み、転送先の部署が半年前に統合されていたことを知った。存在しない部署から出された以前の指示は、誰が引き継いだのだろう。
上司は中央へ確認すると約束したが、返答は遅れた。住民窓口では冬に申請した補助金がまだ振り込まれないという相談が相次いでいた。職員は事情を説明し、できる範囲で書類を整えた。
夕方、エリーズは古い決裁簿から、最初に封筒を止めた人物の印を見つけた。部署名はあっても署名はない。その印章は現在使われていない規格だった。
「古い用紙を再利用しただけかもしれません」
同僚は言った。
「だったら、その記録が必要です」
保管庫には古い書類だけでなく、使われなくなった椅子や棚まで並んでいた。移転作業の職員は限られた時間で整理し、埃まみれの箱に番号をつけていた。エリーズは手を貸しながら、ある年の引継ぎ帳にだけ担当者の名前がないことに気づいた。紙が抜けた痕跡はない。最初から空欄なのだ。誰かが意図的に消したのか、単なる事務処理の不備かは分からない。彼女はそのページも含めて台帳を請求し、現物の保全が必要だと記した。記録の空白を埋めることは、推測で名前を書き込むことではなかった。
二人は廃止部署の引継ぎ台帳を探した。保管先の部屋は移転中で、棚の配置も変わっていた。懐中電灯を持った警備員が案内してくれた。
終業後、エリーズは手袋を外し、事務所を施錠した。機関の名前は変わる。しかし一枚の紙を受け取った責任まで、名前と一緒に消えてよいはずがなかった。




