灯りの消えた礼拝堂
屋敷の裏手にある小さな礼拝堂では、月に一度、修道女が窓を開けて換気をしていた。参列者はほとんどいない。それでも祭壇の布は洗われ、古い椅子には新しい滑り止めが付けられていた。
アルマンが寄付の会計帳簿を尋ねると、修道女は教区の事務所を紹介した。施設の費用は匿名の寄付で賄われており、身元を開示する義務はないという。信仰に関わる匿名性と、会計上の責任は別の問題だった。
「誰かが住んでいるんですか」
「いいえ。ただ、人が来ないわけではありません」
修道女は多くを語らなかった。町の人が疲れたとき、静かな場所を求めて訪ねることもある。彼女自身も高齢で、庭仕事には若い手伝いが必要になっていた。
夕方、祭壇の引き出しから古い封筒が見つかった。中身は墓地への維持費を納めた領収書だった。支払者の名前は法人で、屋敷の会計に記されたものと同じだった。
教区の事務所では二人の職員が過去の寄付記録を調べていた。修道女の説明は正しく、礼拝堂は実際に匿名寄付で維持されてきた。ただし寄付者が毎年替わるのに、受取人の署名だけが変わらない。担当者は記録の移管で名前が省略された可能性を挙げ、原本を探した。アルマンには書類を見せられないが、法的に説明できる範囲を後日知らせると約束した。その日の礼拝堂では町の老人のための短い祈りが行われた。秘密を疑われている場所にも、人の願いが積もっていた。
アルマンは写しを頼んだが、教区の許可が必要だと言われた。彼は規則を尊重し、その場を離れた。
礼拝堂の灯りが消えたあとも、町の丘には夕焼けが残っていた。




