旧国境の伝票
春の終わり、会計会社の職員が公証人アルマンを訪ねた。古い屋敷への送金記録について、帳簿の保全を求める文書が届いたという。文書は国外の監査機関を経由しており、対応には時間がかかる。
アルマンは法律事務所の担当と連絡を取った。海外の口座が使われること自体は珍しくない。問題は、契約主体を尋ねると毎回別の法人名が返ってくることだった。
事務所の新人は言った。
「全部同じ住所ですよ」
「住所だけで同じ会社とは言えない」
二人は登記記録を集め、現存する法人と閉鎖された法人を分けた。古い会社のいくつかは、戦争後の復興資金を扱っていた。現在の仕事とどう関わるのか、誰も説明できない。
国外の監査機関は、過去に難民支援団体へ資金を配分していたという。アルマンはその事実を知ってから、古い帳簿の分類をもう一度確かめた。慈善事業の名簿と屋敷の修理費は、同じ銀行窓口を使っただけかもしれない。反対に、当時の担当者なら両方を知っていた可能性もある。補助員は照会先を分野ごとに整理した。誰も急いで大きな結論を出さなかったが、名前の分からない契約者の輪郭は少しずつ広がっていた。
資料の写しを作る作業は単調だった。補助員は一度だけ紙を取り違え、すぐ訂正した。アルマンは訂正の履歴を残すよう頼んだ。古い文書に不正があるか調べる仕事で、今の記録を曖昧にしては意味がない。
昼、県都では鉄道の労使交渉が決裂し、駅前に長い列ができた。アルマンの補助員も帰りの列車を変更することになった。屋敷の件に限らず、国境を越える仕事には日常的な不便がつきまとった。
夕方、国外から届いた封筒には、二十年前の支払い先が記されていた。相手はすでに解散した慈善団体だった。アルマンは関係の有無を決めず、次の照会先を記録した。




