写されなかった写真
写真館の店主は、祖父の古箱から一枚のネガを見つけた。屋敷の玄関で撮られた集合写真とは違い、裏庭に停めた車だけが写っている。番号札は古い規格で、現在は照会に時間がかかるものだった。
ナディアは持ち主の許可を得て複写を頼んだ。店主は現像機の癖を説明しながら、写真の端に二人分の影が映っていることを示した。誰なのか判別できない。黒い車との関係も不明だった。
店先では結婚式の記念撮影が続いていた。新郎は緊張し、花嫁が笑うたびに肩を震わせている。店主は撮影時間を延ばし、納得のいく一枚が撮れるまで待った。
夕方、写真館に封筒が届いた。差出人の名はなく、古いネガを廃棄してほしいとだけ書かれていた。中には金銭が同封されていない。脅迫とも依頼ともつかない。
店主の祖父は、祭りのたびに町の広場へ暗室を持ち込み、家族写真を撮ったという。金のない客には料金を待ち、何年後かに受け取りに来る者もいた。箱に入ったネガは、そうして誰かを待つ写真だった。ナディアは今回の一枚だけを新聞に使いたいと申し出たが、店主は公開範囲を考える時間が欲しいと答えた。彼女は急がず、次の取材予定へ向かった。記事より先に持ち主の了解があるべきだと考えていた。
店の壁には色あせた家族写真が何枚も飾られていた。被写体の中には、もう町を離れた者もいる。店主は客が戻った時に写真を渡せるよう、名前と日付だけは丁寧に控えていた。小さな写真館の信用は、そういう長い約束の上にあった。
店主はナディアへ連絡し、封筒を憲兵隊へ持ち込んだ。彼にとって写真は客から預かった時間そのものだった。知らない誰かの一言で、捨てられるはずがない。
翌日、アルマンが写真を確認した。昔の車と現在の私道が結びつくかどうか、まだ答えはなかった。




