返却されない封筒
行政局のエリーズは、資料移送についての決裁が半年近く届かないことに気づいた。上司は新しい書式で再申請すればよいと言った。だが旧式の申請を消すと、なぜ保管が止まったのか追えなくなる。
窓口には年度末の書類が押し寄せ、同僚が一人休職していた。エリーズは昼休みを短くし、各部署へ問い合わせた。中央へ送るはずの封筒は、いつの間にか『処理済み』になっていた。施錠庫には今も現物がある。
「間違いなら訂正すればいい」
上司は言った。
「何をもって処理済みなのか、そこを教えてください」
エリーズは声を荒らげなかった。窓口で待つ住民に迷惑をかけたくないだけだった。午後には出生届を持つ若い父親が来て、鉛筆を借りると何度も礼を言った。
施錠庫の鍵はエリーズだけが持っているわけではなかった。引継ぎの規則に従い、決まった職員が交代で管理していた。彼女は自分の判断が過剰ではないか同僚に確認し、誰が開けたかを記す帳面を見せてもらった。開閉記録は整っている。書類が動いた形跡もない。だから電子上の『処理済み』が余計に不可解だった。いつも手続きを守ることが、未知の相手への抵抗になるとは思ってもいなかった。
夕方、同僚が不審な電話を受けた。封筒に触れず、そのまま捨てて構わないという。電話口の人間は部署名を言わず、上司の名前だけを知っていた。
エリーズは電話の内容を記録し、資料を保存庫へ戻した。手続きには時間がかかる。だからこそ、残すべき証拠まで片づけてはならない。帰路には春の雨が降り、駅の階段が濡れていた。




