ひとりで帰った人
県都の駅で、夜遅くまで働く清掃員が女性を見かけた。小柄な女は切符を買わず、古い列車時刻表を読んでいたという。翌朝、駅の近くで行方不明者の手配書が張られたとき、清掃員は思い出して連絡した。
アンリが映像を確認すると、該当する女性は映っていた。しかし顔は不鮮明で、衣服の色も一般的なものだ。乗車記録だけでは身元を特定できない。警察は駅員の記憶と周囲の通報を突き合わせた。
一方、元倉庫管理人の家族から連絡があった。男は親族へ手紙を出しており、国外へ出ると書いていた。本人の意思なのか、何かを恐れているのかは分からない。
マチューは家族に事情を説明した。男が成人である以上、移動を禁じることはできない。だが安全を確かめる必要は残る。家族は答えに納得せず、それでも手紙の封筒を預けた。
駅の案内係は、古い市街図を尋ねた女性客を覚えていた。だが同じ質問をする旅行者は少なくなく、その女だと断定できない。案内係は地図を貸したが、相手は宿泊場所も目的地も話さなかったという。警察はその話を記録し、乗車記録と照合することにした。礼儀正しい人間が必ず何かを隠しているわけではないし、印象に残った客が犯罪者だとは限らなかった。
ただし似た人物の話が連日のように寄せられ、現地署の電話は鳴り続けた。担当者は過去の記録を確かめる人手が足りないと嘆いた。
駅の清掃員は翌晩も働いた。売店のシャッターが下り、始発の準備が始まる。人は毎日どこかへ向かい、また帰ってくる。
女の名を問われた清掃員は、最後まで分からないと答えた。確かなのは、彼女が一人で駅を出たということだけだった。




