夫の知らない住所
ジュリアンは家の引き出しから、聞いたことのない町の宿泊領収書を見つけた。妻の名義で、仕事のない平日に二泊している。クレールは以前から地図を集めていたが、遠くへ出かけることを話さなくなっていた。
その晩、ジュリアンは領収書を机に置いた。
「何かしたのか」
「確かめに行っただけ」
「誰を」
「まだ分からない」
クレールはそれ以上話さなかった。ジュリアンも問いを続けられなかった。問い詰めれば、妻が二度と帰ってこない気がした。家の中で、二人は別々の寒さに耐えている。
休日、工場の仲間に誘われて近郊の試合を見に行った。観客席では子どもが紙旗を振り、父親たちが審判に文句を言う。ジュリアンはしばらく笑えたことに驚いた。帰りの車で眠ってしまい、仲間に起こされた。
領収書に記された宿は小さな家族経営で、ジュリアンがかつて修理の出張に泊まった町から遠くない。家の冷蔵庫には、そこで買った蜂蜜の瓶が今も残っていた。二人で旅行したかった場所へ、妻は一人で行ったのだろうか。彼は瓶を手に取り、何も分からないまま棚へ戻した。自分が妻の外出を知らないことより、その理由を聞く勇気さえ失っていることが怖かった。
翌朝、ローズがクレールを訪ねてきた。彼女は庭の鉢を手入れしてよいかと聞き、返事を待たず水差しを置いた。ルカの葬儀以降、隣家の庭にも花が少なくなっていた。
ジュリアンは領収書を元に戻した。破ってしまえば何も知らずにいられるのかもしれない。だが紙は残した。名前の知らない町が増えるたび、夫婦の間にある言葉は減っていった。




