無人の待合室
憲兵隊のマチューは、元倉庫管理人の男にようやく連絡が取れた。翌週の午前、町の施設で面談する約束だった。男は顔を見せたくないと繰り返したが、法的な事情を説明すると、ひとまず同意した。
当日、待合室の椅子は空いていた。受付には男から欠席の連絡がなく、携帯電話もつながらない。親族は遠方におり、最近は住所を転々としていたという。マチューは安否確認と証言の依頼を分けて処理した。
病院の看護師イザベルは、以前の礼状を見せた。そこに書かれた『もう来ません』は、病院を避けるという意味にも、町から去るという意味にも取れた。誰も決めつけることはできなかった。
午後、アンリがバス会社から乗車記録を持ってきた。男と似た服装の乗客が県都行きの便に乗ったらしい。ただし身元を保証するものはない。マチューは映像の保存期限を確認し、正式な手続きを始めた。
署の裏手では、警察犬の訓練が行われていた。指導員が若い犬を励まし、失敗すると初めからやり直す。アンリは窓越しにそれを見て、じれったそうに息をついた。
男の部屋には古い観光地図が掛かり、壁に旅行先の切符が留められていた。人生の大半を外で働いてきた人間なのだろう。管理人は、隣室の老人の荷物運びを頼むと快く引き受ける人だったと話した。暴力に巻き込まれたかもしれない人間にも、それ以前の生活がある。マチューは部屋の写真を撮る担当者へ、私物を乱雑に扱わないよう念を押した。家族が戻ったとき、失われたものを一つでも少なくしたかった。
翌朝、男の部屋の管理人から相談が来た。郵便受けに新聞が溜まり、家賃の支払いも止まっている。部屋には慌てて出た様子がなく、食卓に洗ったばかりの皿が伏せてあった。
失踪と逃避の区別は、簡単にはつかなかった。




