届かなかった謝罪
ナディアは診療所の移転問題で町議会を取材していた。医師が足りず、冬にバスも減る。高齢者たちは陳情書へ署名し、若い母親は子どもの診察日だけでも移動手段を残してほしいと訴えた。
会議後、医療記録室の技師シモンから短い連絡が入った。資料の受領印について、正式な回答がまだないという。記者として公開できるのは、答えを待っている事実だけだった。
新聞社へ戻ると、編集長が地方行政局のエリーズを紹介した。彼女は欠けた送付決裁の控えを持っていた。二人の記録には同じ日付があり、資料の動きだけが説明と合わない。
「記事にできますか」
「まだ誰が止めたのか分かりません」
「なら、私たちの名前を出さなくてもいいです」
ナディアは二人に、必ず確認を取ってから書くと約束した。会社の暖房が夕方に落ち、編集室は急に寒くなった。広告収入が減って、節約が続いている。
『北の窓』の印刷機は古く、夜になると金属の振動が床へ伝わった。ナディアは編集長の机に、資料移送に関する二つの確認書を置いた。編集長は日付を見比べ、二人の証言だけで原因を断定しないよう言った。彼の父親もかつて編集者で、間違った見出し一つが町の店を潰しかけたことがある。ナディアは記事の見出しを弱めた。弱い言葉でも正しければ、残していけると思った。
夜、クレールから電話があった。過去の取材で、屋敷の旧名を聞いたことがないかと尋ねられた。ナディアは知らないと答えた。受話器の向こうで短い沈黙が続き、礼だけが返ってきた。
切ったあと、ナディアは自分が謝ろうとしていたことに気づいた。記事にしていないことを、誰にどう詫びればいいのか分からなかった。翌朝も診療所の前には列ができる。




