隣家の証言
ローズ・ルノーは救急車の到着時刻を覚えていなかった。壁の時計は十時十四分を指していたが、いつからその針が動かなくなっていたのかも分からなかった。
覚えているのは、朝の九時過ぎに一度、呼び鈴が鳴ったことだった。玄関に立っていたのは灰色の上着の女で、間違った住所を口にした。ローズが訂正すると、女は短く礼を言って立ち去った。
「家の中へ入れましたか」
憲兵隊の若い捜査官が尋ねた。
「いいえ。門の外で話しただけです」
ローズは同じ答えを三度繰り返した。四度目には、自分の声が誰か別の人間のものに聞こえた。
医師が帰り、救急隊員が廊下で機材を畳んだあとも、食卓には二つのパンが残されたままだった。片方の紙袋に、クレールの筆跡で「ローズへ」と書かれていた。
戸口ではジュリアンが作業着のまま立ち尽くしていた。彼の靴底には、整備工場の黒い粉がついている。ローズは自分が説明しなくてはと思ったが、何を説明しても、寝台の中の静けさは変わらなかった。
救急隊が来るまでの数分、ローズは廊下に立ったまま、いつも通り湯を沸かそうとしていた。やかんの音がすると、ルカが目を覚ます気がしたのだ。誰かが火を止めたあと、彼女はその誰かに礼を言ったかどうかさえ覚えていない。
夕方、憲兵隊が鍵の受け渡しを確認した。予備鍵は台所の引き出しに一つ、ローズの家に一つ。どちらもあった。裏口に壊れた跡はない。
「女の顔を描けますか」
ローズはうなずきかけて、首を横に振った。覚えているのは濡れた革靴と、傘を差していなかったことだけだった。
雨など降っていなかったのに、女の靴だけが濡れていた。




