冷めないミルク
ヴァルノワの朝には、教会の鐘より先にパン屋の車が来る。
クレール・モローは窓を半分だけ開け、通りを渡っていく車を見送った。生後五か月のルカは、毛布から片足を出して眠っている。冬が近い。昨日買った靴下はまだ大きく、足首のところで二度折らなければならなかった。
台所には、夫ジュリアンが夜勤前に洗ってくれた哺乳瓶が三本並んでいた。鉄道の整備工場は人手不足で、最近は帰宅時間が不規則だ。それでも食卓の端には、必ず翌日の買い物を書いた小さな紙が置かれる。
「薬局に行ってくるわ。すぐ戻るから」
隣家のローズは、玄関で編みかけのマフラーを持ち上げた。長年、近所の子どもを見てきた女性だ。ルカは彼女の声を聞くと、眠ったまま口元をゆるめる。
クレールは店を出る前、子ども服の棚の前で少し立ち止まった。小さな青い帽子に白い星が縫い付けられている。まだ必要のない冬物だったが、次の給料日になったら買おうと心に決め、値札だけを覚えた。
処方箋の薬を受け取るまで、思いのほか時間がかかった。帰りにパンを二つ買い、一つはローズに渡すつもりだった。外は晴れていたが、手袋をしていても指先が冷える。
家の前には見慣れない黒い車が停まっていた。運転席は空で、後部の窓だけが曇っている。クレールが買い物袋を持ち直したとき、車は静かに坂道を下っていった。
玄関の扉は閉まっていた。呼び鈴を押す前に、室内からローズの声がした。ひどく細い声だった。
「クレール、こちらへ来て」
ルカの寝台の脇に、温めたばかりのミルクが置かれていた。毛布の端から、小さな指が一本だけ見えている。
クレールはその指を包んだ。
冷たかった。




