県境の記録室
県境に近い古い記録室で、司書のミレイユは劣化した索引簿を新しい棚へ移していた。廃止された倉庫の地番は、地図上では消されても土地の権利からは簡単に消えない。訪ねてきた女性は、その区別を丁寧に確かめた。
「写しを取れるのはどこまでですか」
「公開された地番台帳までです。所有者の連絡先は出せません」
女は礼を言い、許された資料だけを複写した。ミレイユが後で貸出簿を見ると、署名はクレール・モロー。新聞に載った乳児の母親だった。
午後には学校の教師が郷土史の写真を借りに来た。子どもたちが古い採石場を調べるという。ミレイユは道路開通時の集合写真を探し、管理人たちの顔が並んだ一枚を見つけた。その写真の裏には、屋敷へ続く私道の旧名が記されていた。
記録室の閉館間際、県庁の職員を名乗る人間が電話を寄越した。先ほどの女性に渡した資料の番号を知りたいという。ミレイユは利用者の閲覧履歴を外部へ教えられないと断った。
ミレイユは昼休みに町史の編集者へ電話し、採石場の写真がどの資料から転写されたか尋ねた。編集者は保管先を調べて返事をくれたが、元のガラス乾板は数十年前の洪水で損傷したという。残った写真は一枚きりだった。新しく来た学生が、乾いた本の匂いがすると喜んだ。ミレイユはそんな場所を守るために働いている。土地の記録が誰かのために利用されても、そこに通う人々の時間は続いていた。
翌朝、上司はその判断を支持した。ただし、問い合わせ自体は記録しておくよう求めた。彼女は電話の時刻を書き、学校へ貸す写真を包み直した。
索引簿には誰の怒りも書かれていない。ただ道と土地の名前だけが、昔のまま残っていた。




