答えのない見舞い
県境の病院で治療を受けていた傷害事件の被害者が、仕事を辞めた。雇い主は席を残すと申し出たが、本人は機械の音に耐えられないと言った。妻は家計簿を開き、生活をどう続けるか考えた。
アンリは公的な補償制度と医療相談先を案内し、事件の調査状況を伝えた。容疑者の所在はまだ分からない。男は「それなら何のために話したんだ」と声を荒らげ、すぐに謝った。
帰り際、妻が廊下まで追ってきた。「犯人を捕まえてください。夫がまた眠れるように」
アンリは努力すると答えた。約束できるのは捜査を続けることだけだった。
相談員は補償申請の書類を一度に渡さず、必要なものから説明した。妻はメモを取り、分からないところを何度も尋ねた。彼女にも仕事と家事が待っていた。
面談を終えたアンリは、被害者の妻が閉じた扉の前でしばらく動けないことに気づいた。大きな声で励ますことも、無責任な約束をすることもできず、相談員を呼んだ。被害者の退職届は受理されたが、雇い主は別の形で職場に戻れるよう支援する意向を示した。男は今すぐ答えを出したくないと話した。午後、アンリは別件の窃盗事件の報告をまとめた。無事に持ち主へ返った品もあれば、戻らなかった物もある。署の仕事は事件の大きさで順番を決められない。夜、彼は娘が描いた絵の複写を受け取り、本人の許可を得て事件記録とは別に保管した。
病院を出たアンリは妻から夕食の買い物を頼まれていたことを思い出した。店の閉まる時刻が迫っている。彼は通りを急ぎ、約束していた牛乳を買った。
その夜、男は娘が描いた絵を机に立てかけた。空は以前より青く塗り直されている。彼は絵を眺めながら、翌日の診察予約を書き留めた。




