食事券の裏側
食堂の責任者アデルは、新聞で信託の監査についての記事を読んだ。利用者の中には寄付を受けた食事を食べるのが悪いことのように感じ、来なくなる人もいた。職員は誰も責めなかった。
ナディアは追加取材に訪れ、利用者の匿名性を守る条件で運営費について聞いた。寄付金のうち、食材費に使われた額は明確だった。一方、施設の保全名目の支出は本部が直接管理している。
午後、食堂の前に見慣れない車が停まり、背広の男が監査の資料を持ってきた。アデルは受領書に署名し、内容を職員へ説明した。監査のために、食堂が急に閉じるわけではない。
アデルは食堂の扉へ翌月も営業する予定を書き出した。ただし資金の確約はまだないため、確定した日付だけを載せた。利用者がそれを読み、肩の力を抜いた。
食堂の献立は野菜の煮込みだった。アデルは必要な食材を数え、余った分を翌日の昼に回せるか調理師と相談した。新聞を読んだ利用者が、ここはなくなってしまうのかと尋ねた。現時点で閉鎖は決まっていない、とだけ答えた。ナディアは不安を広げる言葉を記事の見出しにしないよう編集長と話し合った。支出を示す書類には、利用者一人当たりの食事代が記されている。数字は小さく、現場の職員にはぎりぎりの予算だと分かる。ナディアは調理室の床を掃除するアデルの背中を見た。監査が何を明らかにしても、食堂で働いた時間まで消えるわけではなかった。
夜、アデルは食事券の裏に書かれた小さな礼の言葉を見つけた。毎週来る高齢の女性の筆跡だった。金銭の書類には載らない仕事も、ここでは続いている。




