封印の切れ目
シモンは冷蔵容器の移送証明を受け取った。温度記録に短い欠落がある。停電と重なった時間ではなく、受領者が交代した時刻だった。装置の故障か書類の不備か、説明はまだつかない。
同席した技術者は、容器に付いた封印の継ぎ目が交換時期と一致しない可能性を指摘した。ただし長年の湿度で接着剤が縮んだのかもしれない。シモンは標本の写真を撮り、検査の順序を改めて確認した。
病院の予算会議では、新しい冷却設備の費用が議題になった。古い試料の保管だけに費用をかけるわけにはいかないと事務長は言った。シモンは現在の患者にも必要な設備だと説明した。
夜の検査室では、温度計の数字だけが静かに動いていた。シモンは警報装置の点検表に署名し、翌朝の担当者が迷わないよう今日の作業を一行で残した。
シモンは技術者へ、剥がれた封印がいつから使われていたか尋ねた。答えはすぐには出なかった。製造元の資料には仕様変更の記録があり、倉庫側の発注履歴と突き合わせる必要がある。検査室へ戻ると、後輩が今日の仕事の残りを確認していた。急ぎの患者検査もあり、古い資料の調査だけを続けるわけにはいかない。夕方、診療部長はルカの父親へ進捗を伝える機会を設けようと提案した。シモンは早すぎる期待を持たせないように、分かったことと分からないことを箇条書きにした。電話を掛ける前、彼は窓を閉め、静かな部屋へ移った。声の調子で希望を与えるわけにはいかなかった。
夜、検査結果の速報が届いた。番号だけは一致する。それでも容器の中身をルカのものだと言える段階ではなかった。




