眠れない証人
傷害事件の男は仕事への復帰を試みたが、工場の扉が閉まる音を聞いて動けなくなった。雇い主は出勤日を減らす案を出し、労働医へ相談するよう勧めた。男は家族の生活費を心配していた。
マチューが会うと、男は新しい情報を話したいという。「答えが違うと、質問の仕方が変わった。知らないと言えば、それも違うと言われた」
男は自分が実際には知らない人の名前を口にしたと告白した。その名前を加害者が求めていたからではなく、終わらせたかったからだという。マチューは記録に残された名前を再照合し、本人の訂正を受け付けた。
男の娘は待合室で絵を描き、父へ持たせた。紙には三人の家族が並んでいる。警察官は娘の描いた空を褒め、父が外へ出る時間を待った。
家の玄関で男は靴を揃えた。妻は「お帰り」と言い、娘が居間から顔を出した。何気ない返事をするのに、男は少し時間がかかった。
男が訂正した名前は、以前から捜査資料に載っていた。警察はその人物へ疑いを向けていたのではなく、証言の裏付けを探していた。マチューはアンリに電話し、供述の訂正が別の官署へも伝わるようにした。男の妻は、もう面談を受けさせないでほしいと頼んだ。医師と相談し、必要性が生じるまで休ませることになった。夕食時、家族は久しぶりに一緒の食卓を囲んだ。娘が学校で習った歌を披露すると、父は手拍子をしながら途中で涙をこぼした。何も元に戻ったわけではないが、笑える夜が一つあることを、妻は大切に思った。
マチューは面談の翌日、支援担当者から男が眠れたと連絡を受けた。治療が終わったわけではないが、今日の回復を記録し、次の面談を急がないことにした。




