手帳の一行
エロディは引退した鍵管理者を施設へ案内した。老人は古い机を見つけ、引き出しの位置まで覚えていた。廃止された印について問われると、「あれは鍵よりも順番を守るための印だった」と話した。
承認に先立ち、電話で確認を取る相手がいた。ただその名前は知る必要がなく、当時は誰も疑わなかったという。老人は手帳の一行を示した。「夕刻、青封筒を回収」。誰が回収したかは書いていない。
設備工事のため見学は途中で終わった。出口で老人は雨傘を忘れ、若い職員が追いかけて渡した。エロディは感謝の言葉を受け取り、見学の記録を正式なファイルへ入れた。
老人が帰ったあと、エロディは見学者用の椅子を元の位置へ戻した。手帳の複写には貸出番号を付け、他の資料と混ざらないよう透明な袋に入れた。
老人は若い職員の頃、青封筒を受け取るたび机の上へ時間順に並べたと話した。中身を開ける権限はなく、ただ渡し先の部署を間違えないよう印を付けたという。エロディはその話を聞き、印の意味について以前の記録と一致する部分だけを抜き出した。老人が語る当時の働き方には、今の制度と違う点がいくつもある。過去の慣行が現在まで続いているとは限らない。午後、施設に母親から電話があり、週末に一緒に昼食を取る約束をした。彼女は再び地下へ戻り、長年閉じたままだった戸棚の鍵を確かめた。扉は記録どおりに開いた。
受付にはいつものように閲覧申込書が積まれた。老人の手帳の話があったからといって、ほかの資料を借りる人を待たせるわけにはいかなかった。
見学後、監査室から問合せが来た。青い封筒という用語は他の資料にも見えるという。エロディは当時の習慣について断定せず、手帳の写真だけを提出した。




