辞めた会社の地図
元役員は回復後、アンリに昔の輸送路の地図を示した。屋敷と中央保管施設の間に記された道は、現在の公道と少し違う。私道の一部が改修され、古い納品先が別名になっていた。
「誰が指示していたんですか」
男は首を振る。「本社の管理室です。私は運行表しか見ていない」
事故に遭ったと思っていた日について聞かれると、男は答えなかった。警察はその沈黙を犯意や隠蔽の証拠にしなかった。診断書には強い不安と睡眠障害が記されている。
一方、町の学校では送迎バスの路線変更を巡る説明会があり、道路担当者が古い私道の資料を借りに来た。マチューは捜査記録を渡さず、公開地図の保管場所を教えた。
警察署の事務員は大きな地図を広げる場所を作るため、使い終えた会議室を片づけた。二人は古い道の名称を読み合わせ、同じ地名を別の場所に付けないよう注意した。
男の古い地図には何度も折った跡があり、裏側には修正液で消した文字が残っていた。アンリは地図の状態を写真に収め、現物の扱いについて本人に説明した。別の捜査で必要になれば正式な保全を求める可能性があるという。男は「捨てないでくれ」と言った。かつて自分が働いた証拠が何も残らないのを恐れているらしい。マチューは道路課の主任から、南側の道が豪雨の年に閉鎖されたと聞いた。その記録は町の防災資料にもある。物資の輸送と災害対策が同じ道路を使ったとしても、荷物が違法だったとは限らない。二人は古い地名を新しい地図へ書き込み、場所を取り違えないようにした。
男の地図の余白には小さく「南側経由」と書かれ、使われなくなった倉庫の名称が残っていた。アンリはその文字を撮影し、本人に地図を返した。




