配達区の境目
郵便集配人リュックが憲兵隊の待合室を出たのは、午前の配達を一時間遅らせた頃だった。相談を受けたマチューは、脅迫と断定する材料はないと説明した。その言葉は正しかったが、リュックを安心させるには足りなかった。
「その方は手を出しましたか」
「いいえ。でも、私が黙る理由まで知っているようでした」
私道の住所は配達区域の外だった。かつては住み込みの管理人へ手紙が届き、十年ほど前から持ち帰り扱いが増えた。配達記録を調べるには上司の許可が必要だ。マチューは正式な照会を出し、返事を待つことにした。
午後、リュックは山裾の村へ薬の小包を届けた。老婦人が署名欄を間違え、寒さで指が震えていた。彼は手を添えず、ゆっくり数字を読み上げた。急いだところで、届け先が少なくなるわけではない。
帰りの坂で、クレールの姿を見かけた。墓地から出てくるところだった。買い物袋はなく、以前のように誰かへ声を掛ける様子もない。リュックは自転車を降りずに通り過ぎた。
局舎へ戻ったリュックは、配達鞄の底から古い送り状を取り出した。数年前に誰かが書き損じた控えで、宛先は廃止された道の番地だった。紙は古く、今の件に関わるとは思えない。それでも、配達できなかった郵便物の行き先を、正式に確かめる必要があると感じた。局長は慎重に耳を傾け、私物の控えを独断で持ち出さないよう注意した。リュックは従い、局の備品として袋へ戻した。
夕方、局長から連絡があった。古い配達区の台帳を中央で回収するという。書庫の整理は前から決まっていたが、予定より二か月早い。リュックは憲兵隊に電話し、日付だけを伝えた。
彼には隠すものがなかった。それでも明日の配達順を並べ替える間、窓の外を見る回数が増えた。




