最初の問い
町の郵便集配人リュックは、夕方の配達を終えてから一人の女に声を掛けられた。腕には買い物籠を下げ、コートの襟をきちんと留めている。以前、乳児を亡くした家の母親だと、すぐに分かった。
「この住所に手紙を運んだことがありますか」
差し出された紙には、郊外の古い屋敷へ通じる私道の番地が書いてあった。
「届け先の情報は話せません」
リュックが答えると、女は一度だけうなずいた。引き下がるかと思ったが、今度は別の地番を示した。そこは数年前に廃止された倉庫の住所だった。
「そこも、郵便が届いていましたか」
「あなたには関係のないことです」
女は答えず、紙を折り畳んだ。リュックはそのとき初めて、彼女が質問より先に、自分の反応を確かめているのだと気づいた。
郵便局では春から配達区域が変わる予定だった。リュックは新しい地図を覚えるため、廃止された道の名前まで書き写していた。だから女が示した二つ目の地番にも、見覚えがあった。それを表情に出したことを、彼はすぐに悔やんだ。
近くの肉屋が店を閉め、通りには夕食の匂いが流れていた。女は買い物籠から何も取り出さない。ただ、道を譲ろうとしたリュックの前に立ったままだった。
「知っているんですね」
「何も知りませんよ」
その答えを聞いたとき、女の表情は少しも変わらなかった。
リュックは強引に横を通り抜けた。背後から追ってくる足音はない。それなのに帰宅後も、鍵を二度確認した。
翌朝、彼は町の憲兵隊へ相談に行った。受付の職員が女性の名を聞くと、リュックはすぐに答えた。
「クレール・モローです。あの人は、私の答えを信じていません」




