署名の重さ
アルマンの事務所へ、郊外の法律事務所に勤める若い弁護士が訪ねてきた。旧規約で使う代理署名の効力を調べたいという。アルマンは契約書を読み、本人が誰かを確かめずに承認だけ継ぐ仕組みに疑問を持った。
「名誉職に就いた人を知っていますか」と尋ねると、相手は「私は書類の受領を担当するだけです」と答えた。それ以上聞いても職務上の守秘義務がある。アルマンは引き下がり、照会可能な事項を整理した。
昼には近所の古い家の相続を巡る相談があり、兄弟が通路の幅で口論した。彼は測量の必要を説明し、当日中の結論を求めなかった。
若い弁護士は帰り際、古い委任状の端に付いた青い糸の話をした。原本を束ねたときの名残だという。アルマンは、その綴じ方を屋敷の資料でも見たことを思い出した。
補助員は訪問者の名刺を名刺帳へ差し込み、用件だけを記録した。来客用の茶碗を洗い終えると、夕方の鐘が聞こえた。
事務所では新しい補助員が、窓際の植木鉢に水をやっていた。書類の山がいつまでも減らないと愚痴をこぼすが、アルマンは手の空いたときに必ず休むよう伝えた。若い弁護士が持参した書類には、代理の資格が一年前に更新されたと記されている。更新したのは法人であり、旧名誉職とは別の権限だ。アルマンは両方を混同しないよう朱筆で線を引き、証明できる範囲を補助員へ説明した。かつて同じ青い糸で綴じた家族の遺言書も扱ったことがある。紙の束をまとめる方法は、秘密を示す印ではない。だが原本がどこへ移されたかを探す目印にはなる。
それでも糸の色で人を告発することはできない。翌朝、彼は原本の保管先だけを正式に問い合わせた。




