試料に付いた霜
シモンは別病院の冷蔵倉庫へ向かい、古い保存容器の封印を立会人と確認した。番号はルカの記録と一部一致する。しかし札は交換され、保存温度も連続した記録ではない。身元の照合を急げないことを、同行した看護師も理解していた。
容器の外側には霜が残り、棚には別の患者の試料も並んでいた。シモンはそれらを動かさず、保管担当者から移設当日の作業記録を受け取った。搬入時刻は書かれているのに、搬出元の病院名が一行だけ空白だった。
午後、倉庫で停電対策の訓練が始まり、職員たちは慣れた動きで予備電源を点検した。数十年前の資料でも、今ここにある以上は守る責任がある。
保存庫の窓には結露が広がっていた。担当者は布で拭き取り、冷却機が止まっていないことを確かめた。外へ出たシモンの頬に、雪混じりの風が当たった。
保存庫の担当女性は、この倉庫で二十年以上働いているという。かつて大雪で道路が閉ざされた日、病院からの搬送品を運ぶため職員が寝泊まりしたと話した。冷蔵庫の番号を覚えていても、患者の顔は知らない。それでよいのだと彼女は言った。シモンは担当女性へ、封印の交換に使う資材の型番を尋ねた。昔と今では同じ品でも規格が違い、記録の読み方を間違えることがある。女性は倉庫の古い購入台帳を探し、翌週までに複写できる範囲を知らせると約束した。帰り際、シモンは自分が期待しすぎていたことに気づいた。番号が似ているというだけで、父親へ良い知らせを持って帰れる気がしていた。
帰路、シモンはマチューへ結果を伝えた。同一の可能性はあるが確定していない、と何度も言い直す。電話の向こうでは町の学校が下校時刻を迎え、子どもたちの声が風に混じっていた。




