声の届く場所
ジュリアンはマチューに呼ばれ、古い録音について尋ねられた。クレールが家にいた頃の留守番電話の声だ。本人の声として確認できるか、それだけを聞かれた。
録音には家の近くのパン屋に予約を頼む声が入っていた。ジュリアンはすぐ妻の声だと分かった。何度も聞いた、何も特別ではない声だった。
「最近の録音ではありません」マチューは説明した。
ジュリアンはうなずいた。別の傷害事件との比較のためらしいが、詳しい結果は告げられなかった。
帰りにパン屋へ寄ると、店主が古い注文帳を見せてくれた。子どもの誕生祝いに小さな菓子を買った記録が残っている。
家へ戻ると、ジュリアンは録音を聞いた時の声を思い出した。昔の妻を知っていることと、今の妻を知っていることは違う。
マチューはジュリアンへ、録音の比較からすぐ結論を出すつもりはないと説明した。古い機械の音質が悪く、本人確認には限界がある。ジュリアンは理解したと答えたが、声を聞いた日から眠りが浅くなった。夜勤の班長は彼の疲れに気づき、翌日の作業を軽くするよう調整した。ジュリアンは謝り、代わりに書類整理を引き受けた。工場の休憩室で同僚が家族の写真を見せた。生まれたばかりの子どもが笑っている。ジュリアンは祝福し、写真を丁寧に返した。家に戻る途中、パン屋の前で足を止めた。クレールが録音の中で頼んでいたパンは、今も同じ棚に置かれていた。彼は一つだけ買い、家でゆっくり食べた。 工場の帰り道には、昨日と同じ顔の人々が買い物をしていた。
彼は灯りをつけ、夕食の準備を始めた。向かいの席は空いたままだった。




