首都への訴え
ナディアはラ・ヴェーヌ信託の公的補助金について記事を掲載した。書いたのは確認できた予算と監査の遅れだけだった。乳児死亡事件との関係は触れていない。
記事が出ると、会館には抗議の電話が増えた。地域の福祉事業を助けているのに、不正のように扱うなという声もあった。実際、信託の補助で運営される施設は少なくない。
ナディアは取材先を改めて訪ね、活動を続ける職員の困惑を聞いた。記事の事実関係に誤りがないことを示しながら、相手の声も次の記事へ載せると約束した。
夕方、匿名の封書が届いた。中には名誉職の承認欄が空白になった古い規約の写しがある。差出人は不明だが、公文書との照合は可能だった。
記事の後で、信託が支援していた施設の職員が新聞社を訪ねた。自分たちまで疑われるのは困ると話し、活動報告の冊子を渡した。ナディアは時間を取り、施設で毎日配られる食事の数や職員の勤務を聞いた。一方で、監査の結果を知らせない上部組織に不安があることも分かった。編集長は次の記事を急がせたが、ナディアは資料を確認する猶予を求めた。昼には町議会から電話があり、別の記事の数字に訂正を求められた。彼女は原資料を確かめ、誤りがない部分と直すべき部分を分けた。夜の新聞社には電話が鳴り続けている。誰かに都合の悪い事実を載せることと、関係のない人々を一緒に断罪することは違った。 窓際の机には、別件の原稿が何枚も重ねられていた。読んで確かめなければならない名前はまだ多かった。
彼女は公開情報の収集を続け、編集長へ次の企画を相談した。大きな名前を一つ書けば済む問題には見えなかった。




